天使と悪魔
天界と魔界の狭間、人間界とはまた違う場所、その段差に一人の天使が腰を下ろす。何もないがある、妙なところだ。あると認識すればそれは有り得るし、ないと思えば無し得ない。そんな特殊な空間だった。 特に不思議に思うことはなくなっていた。既にだ。知っているし知っていない、曖昧なものなのだ。皆興味など持たずに暮らしている。 天使は真っ白い羽をばざりと羽ばたかせると、気怠そうに瞼を閉じてしまった。
そうして暫くすると、遅れて一人の悪魔がやって来る。 異形の姿をした悪魔は姿を確認すると、嬉しそうに、申し訳なさそうに天使に近づいて行った。 「待たれましたか?」 「…」 「ああ、それは申し訳ありません」 「…、わたしはまだ何も言っていない」 瞼を押し上げ隣に立つ悪魔を見上げるように睨む。何でもない風な悪魔はにこりと笑ってこう言う。 「わかりますよ、貴方のことなら、何でも」 「…気持ちが悪い」 天使はお気に召さなないようで顔を反らしてしまった。溜息までついている。 特に気にしていない悪魔はまた口を開く。 「お隣、宜しいですか?」 「好きにしろ」 「では失礼します」 天使が座る同じ高さの場所に腰を下ろす。椅子はない。 ああ、こうしているのも何度目だろうと天使はぼんやりと思う。特に何をするでもなくこうして2人で此処に居る、ただそれだけなのだ。いつからなど、永い時を生きる二人にとって気にも留めぬことだった。
「変わらないな、此処は」 「ええ、そうですね、変わらず色を含みません」 天使はまた一つ溜息をつき、その視界を閉ざした。 彼の視界は異形の悪魔と同じ色をしていた。
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