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夏に溶けし花
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【ヒロイン サイド】




「…っ、しょっと…」


演劇部の衣装に使う布や飾りに使うスパンコール、フリルなど大量に買い込んだ私は、両手に抱えきれない程の荷物を持って、ショッピングセンターを歩いていた。


もう少しで夏休みを利用した合宿が行われる。


練習の合間に衣装の準備も同時進行しなくっちゃね…。


既に暑い太陽の日射しを受けながら歩いていると、後ろから声を掛けられた。


「夏子さーん!」


聞き覚えのあるその声の人は


人懐こそうに私の元に駆け寄った。


「黒澤さん」


「わぁ、凄い買い物の量ですね!演劇に使うモノですか?」


「はい。夏の合宿がもうそろそろ始まるんです。だから、その時に衣装も作ろうかと思って」


「凄いなぁ。なんか、いいなぁ。青春!って感じで!ハハっ」


穏やかな笑みを浮かべて、黒澤さんがじっと私を見た。


「よかったら、持ちますよ?荷物」


「え!良いですよ!黒澤さん、お仕事中じゃ…」


「今日は珍しく直帰していいって、あの鬼教官、石神殿に言われて参りました!」


ビシっとわざとらしく敬礼をする黒澤さんがおかしくて思わず笑っていると、その隙にひょいっと荷物を持ち上げられた。


「ね?だから持たせて下さい。荷物。夏子さんにこんな荷物持たせたまま帰らせたら、後で皆になんて言われるか分かったモノじゃないですよ!」


にこっと笑顔を見せて、そう冗談ぽく言う黒澤さんに、私は素直に頷いた。


「すみません、それじゃ、お言葉に甘えてもいいですか?」


「どーぞ、どーぞ、甘えて下さい!もっと甘えて下さい!というか、夏子さん?こういう時に頼らないで、いつ恋人に頼るんですか?」


茶目っ気たっぷりにそういい、パチンと軽くウインクする黒澤さん。


「…ふふ。確かに、そうですね。」


―…黒澤さんの、こう言うところが凄いって、いつも思う。


困った時とか、大変な時。


何でもないって顔して…寧ろ、頼ってもらって良かったていう態度で、相手に何の気負いを追わせないこういう心配りが出来る所が、


彼の最大の魅力なんだろうな…。


そして、私がとっても好きな彼の所。


2人で並んで歩いていると、直ぐ先の商店街の隅で、くじ引きをやっていた。


「…あ、そうだ。」


私は財布から先ほど買った生地屋さんで貰ったくじ引き券を取り出した。


(確か、結構貰ったんだよね。えーと、…1枚、2枚、3枚…。補助券があと2枚で4回引けるのか。)


財布を見ながらそんな事を思っていると、隣にいた黒澤さんが「あ」と思い出した様に声を上げた。


「夏子さん、俺、補助券2枚ありますよ?使います?」


「え?いいんですか?貰っても。丁度足りない補助券があって…2枚あったら、もう1回くじが引けるんです。」


「勿論!使って下さい。そして、一等賞取りましょう!えーと何々?一等賞は…わ!温泉旅行!!ベタだけどいいなぁ!」


くじ引きの所まで歩き、黒澤さんがツンと背伸びをして、後ろに飾ってある景品ボードを見た。


「ふふ、そんな簡単に一等賞は取れませんよ。」


「いや、諦めたらそこで試合終了ですよ!」


「…え?それって…?」


某有名漫画の台詞をいい、意気揚々としている黒澤さんがなんだかおかしくて思わずクスクス笑ってしまった。


「わかりました!一等賞、取ってきます!!」


「そのいきです!夏子さん!!」


黒澤さんに盛大に見送られ、私はくじ引きの列に並んだ。


そしてガラガラと抽選器を4回回して、私が手にしたのは―…









「…参加賞のティッシュと、5等賞の花火でした…」


たはは、と苦笑しながら黒澤さんの所に戻ると、それでも前向きな黒澤さんは笑顔で迎えてくれた。


「良いじゃないですか!ティッシュはいつでも何処でも仕えるし、花火かー!夏らしくていいなぁー!」


多分、300円くらいの花火だろう。


手提げタイプにいろいろな花火がビニールテープで張り付けてあった。


そんな花火を。


「結構、種類入っているじゃないですか。わぁ、俺の好きな奴も入ってる♪」


こんな風に喜んでくれる人は、そんなにいないよね。


「…夏子さん?」


少しだけ幼い笑顔を見せていた黒澤さんに心奪われていた私は、名を呼ばれてハッとした。


花火、か…。


「ね、黒澤さん、もし良かったら、一緒にこの花火しません?」


「…え?」


「あ、時間があるときでいいんです。だって、黒澤さんの補助券無かったらこの花火だって当たらなかったし…」


嘘。


本当は、黒澤さんと一緒に花火がしたかった。


夏の思い出に、2人で、なにか思い出を残せたらと思っていた。


いつも仕事で忙しい黒澤さんと、夏らしいことを何か一つでもしたかった。


海も山も、時間を割くような事を一緒にするのは難しくても。


こういう花火なら、少しの合間に、2人でできるかなぁっ、て…。


一瞬、真顔になったあと、優しい笑みを浮かばせた黒澤さんが私を見つめた。


「いいですね、やりましょう、花火。」


「ホントですか?」


「ええ、俺も花火したかったし…夏子さんと。」


「…っ!」


「ね?やりましょう!こう言うのは、善は急げ!今日、直帰だから、今日の夜、しませんか?俺の家の近くの公園、花火OKなんです。」



…やっ、今日の夜…!?う、嬉しい…っ、こんな風に突然黒澤さんと一緒に夜までいられるなんて…やだ、1人で盛り上がっちゃうよ…っ!



「…夏子さん?」


「あ、はい!もちろん!私も今日がいいですっ!」


心がどこかにワープしている見たいになっていた私は、なんだか変な日本語で返事をしていた。


「はは!やったぁ♪…じゃ、そういう事で。」


スッと、差し出された黒澤さんの右手。


「…?」


「久しぶりに、恋人らしいこと、しちゃいましょう?」


きゅっと私の手を握りしめて、嬉しそうな笑みを零した透さんが私の方をみて笑った。


「公安、黒澤透は、只今を持ちまして終業時間となりました。ここから、貴方の恋人、黒澤透です。」


「…く、黒澤さんっ!!」


「あ、ほら、もう公安の時間は終わりました。…名前で呼んで下さい。」


…うわぁ…、か、顔から火が出ちゃいそう…っ


「…は、はい。…透、さん…」


「はい。良くできました。」


今日一番の笑顔を私に向けて、黒澤さんが歩き出した。


私は繋がれた手が熱く感じて、1人のぼせ上がってるのを見透かされないかハラハラしながら、一緒に歩き始めた。













 

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