小説 | ナノ

同居生活


鈴木さんが亡くなった。
いつでも誰にでも優しくて、
みんなを励ましてくれた鈴木さんが。

西君に鈴木さんの再生をお願いしたけど、
彼は全く聞く耳持たずに新しい武器を得ることを選択した。



みんな沈んだままガンツの部屋を後にした。
言葉少なにそれぞれ帰路につく。
タケシ君だけはまだ状況を理解できていないようで、
眠そうに瞼をこすりながら風君の手にしがみついていた。

「あ、そういえば風君て……」

私の声に風君が足を止めた。

「風君たちって、鈴木さんのところで暮らしていたんでしょ?」

鈴木さんが言っていた。
妻に先立たれて一人だったところへ風君とタケシ君が来てくれて、
このところ賑やかで楽しいんだ、と。

胸に激しい痛みが走った。
心臓をギューッと絞られるような痛み。
あの鈴木さんの、皆をなごませるような笑顔はもう見られない。
喪失感に潰されそうになる。
それを振り払うようにグッと奥歯を噛み締め、
少しでも鈴木さんのように風君やタケシ君をなごませられるように笑顔を作る。

「良かったら私の家に来ない?」

風君が驚いた顔をした。

「いや、しかし……」

「私も一人暮らしだし、部屋余ってるから風君とタケシ君の二人くらい
 全然問題なく一緒に暮らせるよ」

「迷惑やなかやろうか」

顔を真っ赤にして慌てている風君がおかしくて、
こんなに大柄の彼のことを可愛らしいと思った。

「迷惑なんかじゃないよ。
 実は私も家に男手があった方が助かるなあっていうのもあって」

「……本当によかとですか?」

私がうなずくと、風君は「お世話になります」と
ペコリと頭をさげた。







私の住まいは3LDKのマンションで、
両親と三人で暮らしていた。
二人とも他界してしまい、一人になった今でも
なんとなくずっと使っていた自室とリビング以外は空き部屋にしていた。
リビングの隣の6畳の和室に二組の布団を敷き、
風君達にはそこで寝てもらうことにした。

「二人でお風呂入ってて。
 すぐそこにユニクロあるから二人のパジャマ買ってくるよ。
 まだギリギリ営業時間内だから」

そんなの悪いと言う風君に
「いいからいいから」と言い残して部屋を出る。
店でメンズとキッズのスウェットを選んでいると、
なんだか家族が出来たみたいでワクワクした。
鈴木さんもこんな気持ちで風君たちと同居していたのかなと
考えると少し涙が滲んできたので、慌てて指で拭った。


二人がお風呂からあがる前に帰らなくちゃと
マンションまでの道のりを走る。
ミッションで敵から逃れるために走るのとは違い、
足取りも軽かった。








翌朝、三人分の朝食の支度をするために
いつもより早起きしてキッチンに向かうと、
風君がダイニングテーブルにつっ伏していた。

「風君おはよう、早いね」

私の声に顔を上げた風君は、目の下にクマを作っていた。

「もしかして眠れなかったの……?」

「いや、大丈夫」

風君は自分の頬を叩いて眠気を吹き飛ばすような動作をした。

「よその家とか苦手だったりする?
 あ、それともやっぱり鈴木さんのことが……」

いくらこれまで何度も仲間の死を目の当たりにしてきたって、
そのたびに辛いことには変わりない。
悲しみに多少は耐性ができた気はしていたけど、
鈴木さんの死はやはり私も少々堪えた。
それでも眠気には勝てず明け方頃にはウトウトしてしまったけれど。

「そうやなか」

風君が頭を振って何か言いかけたと同時に、
和室のふすまが開いてまだ眠そうなタケシ君が起きてきた。

「きんにくライダー」

まだ半分目が閉じていて、髪には寝癖がついている。
普段もまだ幼いけれど、寝起きには赤ちゃんの面影すら感じられる。
可愛い、と思った。守ってあげたくなる。

「おはようタケシ君」

寝癖を押さえるように頭を撫でると、
タケシ君は寝ぼけているのか抱きついてきた。

「風君、タケシ君には私がついてるから、
 今からでも眠れそうなら少しだけでも眠って」

タケシ君を抱き上げながらそう言うと、
風君は頷いてフラフラと和室へ行き、
そのまま布団へ倒れ込むようにして眠ってしまった。







しばらく平和な同居生活が続いた。
相変わらず風君は夜よく眠れないみたいだけど、
私の作った食事もたくさん食べてくれるし、
概ね問題なく暮らしているようだった。
タケシ君は風君がいればどこでも平気みたいだ。
いつも風君にくっついている。

私は昼間仕事に出てしまうので
朝から夕方までの間は二人で体を鍛えたり、
家の事を手伝ってくれたりしているみたいだけど、
タケシ君もずっとこのままというわけにはいかないだろう。
同じマンション内にもタケシ君くらいの歳の子供がいるけれど、
みんな保育園なり幼稚園なりに通っている。

夜、タケシ君が眠りについてから、
風君に自分の考えを話してみることにした。


リビングのソファに並んで腰掛ける。
三人掛けのソファの左端に私が座ると、
風君は一人分のスペースを空けて右端に腰を下ろした。
熱いコーヒーを出したけれど、風君はそれを飲もうとはせず、
両手を膝の上で握るようにして背筋を伸ばして硬直している。

「風君」

声をかけると、風君はビクッと肩を跳ねさせた。

「あの、ごめん、ビックリした?」

「いや、平気たい。それより改まって話って?」

「タケシ君のことなんだけど……」

本当は私がこんな話持ち出すのは出過ぎた真似なんじゃないかと
ずいぶん悩んだ。だけどこうするのが今の所一番良い気がしたし、
私自身もそうしたかった。

「私と風君が結婚して、タケシ君を養子に迎えることってできないかな」

「は?!!!」

風君は今まで聞いたことないような素っ頓狂な声を出した。
その声のボリュームがあまりに大きかったので、
私は思わず子供にそうするように口もとに指を当てて「しーっ」と言ってしまった。

「風君、静かに。タケシ君が起きちゃうよ」

「あ、す、すまん……。やけん、結婚て、そげなこと……」

「タケシ君もいずれ学校に行かなくちゃならないし、
 ずっとこのままってわけにはいかないでしょ?
 養子縁組みってそれなりに環境整ってないと認めて貰えないって聞くし。
 私はお給料は少ないけれど仕事を持っているし、
 贅沢しなけりゃ二人を養っていくことくらいできるよ。
 だから風君さえよければって思ったんだけど……」

「しかし、それでは名前さんが……」

風君の額には汗がいっぱい浮かんでいた。
いつも誠実で真っ直ぐな風君を見ていると、
私はこの人のために力になってあげたいと思うのだ。
ずっと、ずっと力になってあげたいって。

「風君は私じゃ嫌かな?
 私は……風君だったら……」

勇気を出してそう言った。
風君が驚いたようにこちらを見て、
その目がいつもと違うなって思った瞬間、
私はソファに押し倒されていた。

「か、風君……?」

フーッ、フーッ、と肩で息をして、
風君は私の肩をソファに押さえつけた。
これは……ひょっとして……

「嫌なわけなか。
 俺は……俺は……名前さんのことが……」

ガバッと覆いかぶさるように風君が抱きついてきた。
体格差があるので押し潰されそうな圧迫感があり、
私は思わず目を閉じた。

風君は何かに耐えるように私の首元に鼻先を埋めてジッと静止していた。
太腿に硬い物が当たる感触。
ハッとして目を開くと、私の肩を掴んだ手にグッと力が込められた。

「風君、これ……」

「すまん、俺、毎晩眠れんぐらいに我慢ばしとって……
 タケシば起きとる時やったら平気やけど、寝てしまうと
 どうしてもそげな考えが頭の中に浮かんで……
 大丈夫、今も堪えられるけん」

ひょっとして、朝方リビングで目の下にクマを作って座り込んでいたのも、
しょっちゅう寝不足の様子だったのも、そのせいで……。

そう考えると、ますます風君が愛しく思えた。

「いいよ、風君。私の部屋に行こうか」

「い、いいわけなか!いかん、そげなこと!」

「いいよ」

私は腕を伸ばして、風君の広い背中を抱きしめた。

「私達、結婚するんでしょ」

そう言うと風君は「ぬおおおお」と叫びながら、
私を抱きかかえて勢いよく立ち上がった。
そのままズンズンと私の部屋へ行き、
ドアを閉めると鍵をかけ、私をベッドの上におろした。







「名前、名前、名前」

ギシギシとベッドを揺らしながら、
風君は繰り返し私の名前を呼んだ。
これまでずっとさん付けだったのに、
初めて呼び捨てにされて嬉しかった。
風君のサイズは大きくてまるで初めての時みたいに痛かったけど、
風君がしっかりと指を絡めて手を握って
名前を呼んでくれるので、痛みすら気にならなかった。

「ハッ……名前ッ……」

ずっと正常位で私の顔を見つめたままなので
少し気恥ずかしかったけれど、
私も風君が感じてくれている顔を見られると
それだけで満足だった。

「ハァッ、ハァッ、名前、良くなかと?
 俺、はじめてやけん……」

初めてで余裕がなさそうなのに、
息切れしながらも私を気遣ってくれる。
風君の優しさが胸に染みる。

「ううん、気持ちいいよ……あっ」

言葉にしてみて、本当に少しずつ痛みが和らぎ
快感がのぼってきた。

「アッ、風君ッ」

ギュッと手を握る。風君もギュッと握り返してくる。

「アッ……ウッ……名前ッッ」

ドクッドクッと風君のものが私の中で脈打った。
私もそれに応えるように登りつめた。
裸のまま抱き合って、風君はようやく解放されたみたいに
私の腕の中でグッスリと眠った。




(あとがき)初の裏夢が風になるとは私自身も想定外でした。
でも高校生とは思えない漢っぷりが素敵ですよね。



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