元気ですか、僕らの愛したあの世界。僕らは変わらず君たちを愛し、想い続けています。


8/1


2009年8月1日。オレたちがあの夏を迎えてから、10年もの月日が流れました。今、君たちから見て、オレはどう見えているのだろうか。オレは、あの頃のオレのままですか。ひた向きに前に進み続けた、オレのままですか。もし、あの頃のまままのオレでいられているなら、オレは嬉しい。だってそれは、今も胸に勇気を、持てているということなのだから。
今日、オレたちの世界の空は、君たちの元で初めてみたあの空と同じくらい青いです。例え君たちとオレたちが、違う次元の存在だとしても、やっぱり空は同じなんだと思う。
オレはこの空のように、君たちとこの世界を繋ぐ、架け橋になりたい。頭の良い人間じゃないから、たくさんの努力が必要だと思う。けれど、きっとオレが君たちの元に呼ばれたのは、オレにしか出来ないことがあるからだから。だから、オレは諦めない。

勇気を教えてくれた 君たちに。



「あ、太一」
「空 お前出るの早くね?」
「あんたこそ」


玄関を出ると、あの頃より幾分も成長した幼なじみがいた。外見は変わっても、変わらないその笑顔。あたしたちは、貴方たちの元で知った、それぞれの心の強さを、まだ忘れていないみたいです。
あの頃あたしたちは、まだまだ幼くて、大人なんてと、反発してばかりいました。きっと冒険の始めに進むことを決めた理由の一つは、大人たちの監視から逃れて、自由になること、というのもあったと思う。貴方たちを逃げ道にしたかもしれないあたしを、どうか許して。
そして、ありがとう。あたしは貴方たちのおかげで、たくさんのことを学び、愛情を知りました。あたしはもう、胸を張って言えます。お母さんの子供で良かったと。

愛情を与えてくれた 貴方たちに。



「太一と一緒に?」
『そう ヤマトも行きましょ』
「あー わかった」


あとでねと、普段よりも機嫌の良さそうな彼女の声を最後に、ツーツーという定期的な音が受話器から流れる。久しく会っていなかった仲間の姿を思い浮かべると自然と笑みが溢れた。
一匹狼だった俺が、お前たちの元で得た最も大切なものは、助け合える仲間の存在だったのじゃないかと、十年たった今、よく思う。
仲間と呼べるようになったのはいつだっただろう。異なった感性を持つ俺たちは、始めのうちはそれこそグダグダで、互いを共に行動する存在としか認識していなく、お世辞にも、仲間と言えるような関係ではなかった。
お前たちから見て、あの頃の俺たちはどう見えていた。心配だったか、それとも呆れたか。こんな奴らが自分たちを救えるのかって。
でも今の俺たちは違う。俺たちはお前たちの元で知ることができたから。仲間の大切さを、友情の強さを。きっと何年経っても、この“共に冒険した仲間”という関係は、断ち切れることなんてないのだろう。

友情を生んだ お前たちに。



「一時間も早く着きそう?」
『そうなんだよ』
「集合時間早めましょうか」


悪いなと苦笑する彼の声を携帯越しに聞きながら、つられるように僕も笑う。僕らは皆、待ち遠しくて仕方がなかったんだ。君たちと出逢った今日を、迎えることが。
今さらだけれど、僕はとても君たちに感謝してます。もし、あの時君たちが僕を選んでくれなかったら、僕はきっとまだ、一人自分の世界に閉じ籠っていたままだったと思う。正直言うと、自分がこうやって誰かと喜びや悲しみを共有するようになるなんて、思ってもいなかったんだ。
テントモンや太一さん、皆と出逢って、僕は変わることができた。自分のためだけのものだった知識を、みんなのために使えるようになったし、心から仲間と接することで、違った価値観を知ったり、新しいことを見つけることができた。それは全部、一人では気づけないことばかりで。やっぱり、君たちのおかげなんだ。いつか君たちに、恩返しが出来たらいいと思う。君たちの教えてくれた大切なもので、君たちに。

知識を教えてくれた 君たちに。


「あー光子郎くーん」
「…ミミさんも早いですね」
「楽しみだったんだもん!」


歩道橋の先に見慣れた男の子が歩いていて、駆け寄って声をかければ彼は呆れたように大きくため息をついた。けれど、その顔はやっぱり何処と無くうれしそう。
貴方たちと出逢って、あれから10年がたった。月日が流れるのは早くて、あたしよりも小さかった彼を、今ではあたしが見上げているの。信じられる?わたしは信じられない。だって悔しいんだもの。
今だから言うけれど、あたしね、正直言うとあの頃は貴方たちが憎かった。こんな苦しいことばかりなのに、なんであたしを選んだの、なんで貴方たちの為に戦わなきゃいけないの、って。だってあたしは、光ヶ丘の事件にただ居合わせただけの子供だったから。
でもきっと、あたしにしかできないことってあったのよね。それが何だったのかは、今でもわからないけど、そう思ってる。純粋に、ね。

純真を忘れない 貴方たちに。



「集合時間の変更ね」
『丈先輩もオーケー?』
「うん 連絡ありがとう」



昔から変わらず、明るく陽気な彼女の声につられるように、思わず笑った。成長しているはずなのに、僕らはやっぱり変わっていないみたいです。君たちの元でたくさんのことを知った、あの頃と。
あの頃君たちは、僕に自分らしく生きることを教えてくれたよね。自分の意志で進む道を決め、それを突き通す強さ。あの頃の僕に欠けていた、大切なもの。君たちが、いや、正確にいうと君たちの欠片が、僕の背中を押してくれた。新しく広がる世界に、わくわくした。立ち止まってなんかいられない、そう思ったよ。
僕は今、医者になることを目指して、大学の医学部に通っています。親に決められたからとかではなくて、これはちゃんと自分の意志で。道は険しいけれど、僕はもう簡単に諦めたりしないよ。君たちに約束する。君たちが教えてくれたことを無くさないよう、僕は自分の道を歩いていく。

誠実と共にある 君たちに。



「半に公園ですね?」
『悪いね タケル君たち受験生なのに』
「大丈夫ですよ」


通話を切り、予備校の校舎内に設置されている時計を見れば、時計の長針は丁度十二を指していた。半に自習室を出る予定だったというのに、自分の中がそわそわして落ち着かなくて。 ねえ、ボクたち、相当君たちのことが愛しいみたいだよ。
希望。それが君たちがボクの中から見つけ出した、心の強さだったよね。あの頃のボクには、希望なんていう余りにも大きすぎるものが、自分の中にあるだなんて全く信じられなかった。だって、そんな大役を担うのが太一さんでも兄さんでもなく、誰よりも幼かったボクだなんて誰が思う。
でもね、それを考えていた時、ふと気づいたんだ。希望っていうのはきっと、自分を、みんなを信じ、僅かな光でもそれを見失わずに進むことなんじゃないかって。ボクに足りなかったのは、自分を信じてあげることだったんだ。
愛すべき君たちに告ぐ。ボクを信じてくれて、ありがとう。

希望を失わない 君たちに。



「間に合うかな…」
「ヒカリちゃん走れる?」
「うん 大丈夫!」


差し出された手を握ったのを合図に、あたしたちは目的地へと走り出す。前を走る背中は大きくなったけれど、こうやっていると、あたしはなんとなく貴方たちの元にいた頃を思い出します。まるで、まだあの冒険が続いているかのように。
あたしたちの世界の誰かが言っていました。始まりには終わりがあり、そして終わりは始まりの合図だと。あたしたちの冒険は始まることを経て終わりへとたどり着き、あたしたちが終わりへとたどり着くことで貴方たちは再び始まりを得る。始まり、終わり。終わり、始まる。出会いと別れ、光と闇が紙一重なように終わりと始まりも、また。あたしたちはきっと、相反する二つを経るからこそ強くなれるんだと思う。
あたしたちは今、それぞれが自分の道を選び、再び始まりを経ることになりました。またいつか、その道のりが終わりを迎えることになったとき、その終着点が貴方たちと繋がることがあればいいと、そう思っています。愛しすぎる貴方たちの元に。

光を絶やさない 貴方たちに。



僕たちは、君たちと出逢ったことを心から幸せに思います。たくさんのことを教え、与えてくれた君たちに、精一杯の気持ちを伝えたい。



ありがとう!




(本当に久しぶりねー!)(半年ぶりくらいかな?)(多分そうだな)(あとはタケルさんたちですね)(あ ちょうど来たみたいよ)(遅くなってすみません!)(お、お前らなんで手え繋いでるんだよ!)(お兄ちゃんうるさい)



あとがき

8月1日 おめでとうございます。太一たちが冒険をしてからもう10年がたってしまっただなんて、なんだか信じられません。
まとまりもなく、ごちゃついた文となってしまいましたが、記念すべきこの年を、こうやって素敵な企画に参加させて頂き迎えられたことを、心から幸せに思います。
ありがとうございました!