渇望




悪い時には悪いことが続くもので、仕事の報告もしたくない程散々な一日だった。

何もかも忘れたい時は、有って無いような関係に逃避するのがいちばんだと思い、誰にも気付かれないよう彼の所在を調べる。
彼は財団の自分の仕事部屋に居ることが分かった。

勿論、彼の携帯何て知るはずのない私は「仕事」と言う偽りのメッセージを彼の部下に取り次いで貰う。
彼は意外なほどあっさりとこちら側にやって来た。

顔を会わせた瞬間、彼は無言で私にどうしたいのか問い、私は無言で誰にも見られないよう自分の部屋に案内した。

部屋に入るなり、彼をソファまで連れて行き、押すように座らせて膝に跨がる。




「捻ってるね?」

「こんなのどうでもいい。早く…」

「じゃあ他をあたりなよ。僕は君に応じる気はない」




始めての拒絶。




彼の香りを身近で嗅ぎ、芯が熱を持って、じんわりと濡れてくる身体。


他を?


今ほど欲しいと思ったことは無い筈なのに、この身体を他の誰かに開くと言う選択肢自体考えたことは無かった。


応じる気はない何て言葉を真に受ける気はない。
彼だってさっきから準備は出来ている。
私は自分の下衣を下ろし、彼のベルトに手をかける。
すると、彼は私の手を片手で制止し、もう一方の手でそっと私の中心に触れてきた。


初めてだった。初めて触れられた。


びくりと思わず背をしならせ、あられもない声が漏れる。

がくがくと震える膝は、自分を支えているのがやっと。

手は必死で彼のシャツを掴んでいる。

始めての愛撫に顔を隠す余裕なんて全くなかった。
勝手に漏れてしまう声もやんでくれそうにない。


これは快楽だけじゃない?触れられる悦び?


陰核を入念に揉みしだいたその指が、音をたて私の膣控に侵入してくると、いつもとは違うそのゆったりとした挿入に目眩を覚えた。

掻き回すような注挿と、ゆっくりと中を這うような愛撫を数度繰り返され、私はすぐに達してしまった。


呼吸を調え、恐る恐る目を開くと、彼と目が合う。


何を言えばいいのか、どう説明すればいいのか、考えあぐねていると、彼は


「治ったらちゃんと抱いてあげるよ」


と目を細め、そっと口角を上げた。


身体中の細胞が震える音がした。

心臓が再び早さを取り戻したのは、私の中にいたままの彼の指がまた動き出したからだろう。






これが今まででいちばん本当のセックスに近いような気がした。



 



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