現代オフィスパロ/バレンタイン

同じ職場で上司の不死川さんに惚れて早幾年。
そろそろ結婚はー?みたいなことを親周りから言われ始めた25歳の終わり。

不死川さんは誰にでも別け隔てなく厳しく優しい。
もちろん、何という取り柄もない私にも。
特別扱いされてるわけじゃないのもわかっている。
けれど、ため息をたくさんついた日の帰り間際。私のデスクに置かれてる缶コーヒーの差出人が不死川さんだって言うのも、わかってる。
彼の下に就いてから。彼はずっと私を気にかけてくれている。
部下として。
不死川さんのデスク見たところで、もちろん、視線は合わない。
悩んでる原因なんて、貴方しかないんですよ。仕事は順調です。って、フロアから出てエレベーターまで逃げてからため息を吐くしかない。

不死川さんが職場恋愛しない主義っていうのは、実しやかに職場の女子の間でこっそりと回っている話だ。
もちろん、彼に取り次いでほしいって言う女性社員からの申し入れを何度か受けた私にも、それは耳に届いている。

だからまぁ、全然私も脈なんて無いんだろうなぁ。って。
諦めているのにバレンタインの空気に浮かされた私は、いつもありがとうございますってメッセージカードを差し込んだ小さめのお菓子屋さんの紙袋を、他にはなんの意図も無いんですよ、とでも言うように。ただ当たり前みたいに、不在の不死川さんのデスクへと、なんなら、少しばかり乱雑に置いた。

帰る間際に不死川さんをちらっと見たら、今日初めて不死川さんと視線が合った。
8時間も勤務をしていたのに、初めて、だ。

エレベーターまで一緒になってしまった私は、からからになった喉を誤魔化すように、こっそり唾を飲み込んだ。
「サンキュなァ」って、不死川さんの職場ではお目にかかれない、砕けた口調。

けれど、ドアの隙間を睨みつけるみたいに、不死川さんは視線を動かそうともしない。
「はい」とか「いえ」だとか。「義理ですよ」だとか。
何かを返したほうが良いことなんてわかりきって居るのに、不死川さんの背中を見つめたまま、私は返事すら出来ないでいた。
ポン、と間の抜けた音と共に、エレベーターの位置灯が目的階の1を大きく示している。

不死川さんは、ドアの開くのと同時に「こういうの、勘違いされちまうぞ」なんて言った。
どの口ですか、と言いたいのを一歩踏み出すことで私は堪えたのだけれど、エレベーターの外でドアを抑えてくれている不死川さんを見ると、もう駄目だった。

「いつも、コーヒー貰っているので。その、ありがとうございます。……だから、ブーメランじゃないですか」

そう言って、少しだけ息を抜けば、フロアを出た以降合うこともなかった視線が合った。

「俺のは勘違いじゃねぇから良いんだよ」なんて。

「また明日なァ」

そう言った不死川さんは後ろ手に、私の渡したチョコレートの袋を持ち上げるかのように手を振って、て颯爽とロビーを出ていった。

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颯爽と歩いていく不死川さんは、多分近々ご飯誘ってくれるし、そこで普通にちょっと照れながら告白してくれるし、その後結構すぐに将来を真面目に考え始めてくれてるはず


職場っていう人となりが結構割れる長時間を共にするポジでの恋愛はトントンと進むのが好き!です!
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