夏の海を楽しむ方法
後藤は部活に出かけた。
(せっかくの夏休みだってのに、運動部は大変だなぁー)
俺はベッドに横になっていた。全寮室に完備されたクーラーを27度にセットして。
(あぁ…やべぇ俺今幸せかも…っ)
ふかふかと柔らかい布団。愛用枕。完璧インドア派の俺はうっとり目を細めた。
コンコン、と俺の幸せ空間の入口をノックする音が俺の幸福の時間を遮った。
(誰だよ…)
俯せのまま眉を寄せて、起き上がろうと手をついた。顔を上げる。
(ぁ、力はいんね〜…)
やっぱりかくりと肘が曲がって、ぼふっと頭が枕に吸い込まれた。だって仕方ないよ。枕くんが俺と一緒に居たいらしいんだ。
(居留守すっかな…)
なんて、意識を手放そうとした、その時。
「……清水」
「っッ!!!?」
(桜場!?)
聞き慣れたくもない声に呼ばれて勢いよく起き上がると、
ゴンッッと頭をぶつけた。
「ぁだっ!?」
情けない悲鳴。ズキンズキンと外側が痛んで、ぐわんぐわんと内側が揺れた。
「……大丈夫か?」
「ッ…大丈夫です。」
彼はため息混じりに俺に問う。びりびりする額に手を当てて、体を起こして座った。たぶん、でこ赤い。
「…何ですか」
「海行くぞ」
「………」
間髪入れずに言われて、ぴたりと俺の動きが止まる。
(うーん俺最近耳おかしいのかなっ?)
「はやく仕度しろ」
「……」
おかしいのは彼の頭の中のようです。
「あのな、さく」
「お前と二人で行きたい。行きたくなった」
「………」
(あぁもう…)
神様はどこにいらっしゃるんですかね…?
「………、さく」
「夏と言えば海でデートだろう。行くと言うまで…」
当然のように俺の言葉を遮って、桜場は沈黙を作った。
「何だよ」
「清水、…愛してる」
低い声がじんわり響く。ぶわっと顔に熱が集合した。
「――は!?」
「愛してる愛してる愛してる愛して」
「わかったわかったわかったわかった行く行く行く行く!!!!」
(行くって言うまで言い続ける気かよ!!)
泣きたくなった。
俺は勢いよく立ち上がる。
(アホか馬鹿か馬鹿なのかアイツは!!いや馬鹿なのはわかっていたけれども!!)
誰かに聞かれたらどうする気なのか。何も考えてねぇんだろうけども。
(最っ悪…)
俺はこれでもかと大きなため息をついた。
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