愛情になれなかった友情


「お前さぁ、清水のコト好きなの」

え?と聞き返しそびれた。ばっかじゃねぇの、と笑うのも忘れてた。
ずこここ、とあるのかないのか中途半端なオレンジジュースを真っ白なストローですするオレに啓太がした問いはあんまりにも馬鹿げてて、的外れなものだった。
「清水?え、どっちかってーと好きだけど?じゃなきゃつるんだりしないし」
コト、と食堂の綺麗なテーブルにジュースの体重を預ける。なんだか笑ったり怒ったりふざけたりができなくなっちゃって、オレは少し目を大きくしたまま不機嫌な感じの啓太を見つめた。いやだから、と言いながら腕を組む。その間に啓太からの質問をもう一回確認してみたけどやっぱり正しい答えはわかんない。
「そうじゃなくて、お前が女の子を好きなるみたいに好きなのかって聞いてんだよ」
「え、あ、なんでんな話になんだよ。アイツはちびっこいけど男だって」
「んなことわかってんだよ」
(じゃあなんでそんなわけわかんねぇこと聞くんだよ)

だから、そうじゃなくて
とかなんとか言って必死に言葉を繋げようとする啓太。
「渚、お前は清水にオトコできても平気なのか?」
びしり、と突き付けられた割り箸には茶色いソースが少しついてる。オレもお好み焼きにすればよかったかな、ときつねうどんには申し訳ないことを思った。

「オトコって…オンナだろ?」
「ちげーよ。かわいい彼女ができんのとかっこいい彼氏ができんのとじゃ天地ひっくり返るくらい違うだろ」
「いやそりゃそーだけど、清水に出来んのは彼女じゃねぇとおかしいだろ」
「あぁ?お前さ、鈍感なのも大概にしとけよ。変なトコ敏感なくせに…っ最近、…アイツの様子が明らかおかしいことくらいわかんだろうが」

箸をそのままぶっ刺してもとの黄色い生地が茶色に染まってるとこに綺麗に切り込みを入れる。キャベツのあるとこが切りにくいのか苦戦しつつなんとか一口サイズより少し大きめに切り取ってそれを皿の端っこに引き寄せて生地と皿に出来た僅かな隙間に箸を滑り込ませて持ち上げる。ばくり、としゃべってる途中のくせしてかぶりついてもくもくとほっぺた膨らませて噛みながら話すからカッコはつかない。

「変?…まぁよくわかんない嘘つくし、突然うろたえたりするしよくキレるし…」
「今日も、昼メシ一緒に食おうぜってわざわざ言ったのに断りやがった」

とぷり、と上に出てる具をよけ綺麗に透き通るスープに箸を通して白くて太い麺を挟んで持ち上げる。くっついてきたネギとかも口ん中に出迎えてやればシャキ、と心地いい触感でお礼を言うからやっぱこれにして正解、と数分前の自分を褒める。

「…っれは違うだろ、教師に、呼び出されてたじゃんか」
あ。口の中のうどんのせいで滑舌が悪くなった。
「それが問題なんだよ」

「………」
最近おかしいのは、清水だけじゃない。そのことに啓太は気づけてないみたいだ。
「呼び出したのって桜場だろ!?…清水とどうにかなりてーなら、今うどんなんかすすってる場合じゃねぇと思うけど?」
「どうにかって…あのな、」
何をどう勘違いしたらそうなんのかよくわかんねぇ。オレと清水が…ってなんの冗談だよ。…桜場の名前におおげさに反応する啓太はいつも不機嫌だ。怒らすのは嫌だからなんにも言わねぇようにしてるけど。

「あーっそう。じゃあいーんだ?桜場と清水が数学準備室でこっそりイチャイチャーとかしてても。」
「な…いちゃ…?」
「ま、…はふ…んぐ、オレは桜場にゃ清水とうまくいっててもらったほーが得だけどさ」
またしゃべりながら食いやがって。行儀悪ぃぞ
「後悔しねーのかってこと。」
「なんの後悔だよ」
「わかんねぇならいーよ。オレの勘違いってコトだ。」

勘違いに決まってる、だろ。ってか、清水が桜場と…ってそれもどうなんだか。リアリティねーな。嘘くせぇ。教師と生徒で男同士…ってすげぇな。
(なんか…よくわかんなくなってきた。あーめんどくさ)

「ちゃっちゃと食おうぜ」
「どーぞどーぞ」
ずぞぞぞっ、と一気に吸い付く。ちゅるん。うどんって結構いろんな音すんな。
「って、え。嘘」
(なんだろ)
「お前、食うの早過ぎね?」
(オレもそう思う。なんか、急いでる…か?)
そんなに腹減ってなかったはずなのに知らないうちに箸は進み当たり前みたいに食べるスピードは上がる。噛み方も飲み込み方も忘れてしまったようにがっついて、いつもなら汁まで飲み尽くすのにオレは麺の最後の一本を加えてずるりと頂くと
「ごっそーさまっ」
箸をテーブルにたたき付けるみたいにして食事終了の号令を出した。
(…って)
そして気づく。早く食ってどうするつもりだったんだと。なにもできないじゃんかと。
「……」
立ち上がったまま動かないオレを見上げる啓太はなにもかもをわかったって顔してクスリと笑ってから
「そーいやお前、英語の課題出してないだろ」
「え、あ、そう…だな」
「梶くん怒ってんじゃねぇかなぁ。さっさと行けよ」
「へ?…ん、うん…?」

課題出してないけどやってないから会ってもどうすることもできないんだけど。…ま、いーか。










梶原は確かクラスの担任とかはやってなかったはず。食堂にはいなかったし…喫茶店とかか?うちの学園内にはいろんなモンが揃いすぎてて授業中とか以外人を探すのはなかなか困難だ。
みんなどこかしらで昼メシを食っているから人気のない廊下。何か音がする必要なんてないはずなのに、…声が…する?

「うるせーなっ!」
「いい加減素直になれ」
「ア・ホ・か!!!」

(!)
ぴりぴりと廊下の壁に反射して、オレの耳に飛び込んできた2種類の声。

(清水、…と桜場)

なんとなく啓太が言っていたことを思い出して、ずん、と胸の辺りが重くなる。清水は桜場に呼び出されたわけなんだから二人で居たとしてもなにもおかしくないはずなのに、チクチクと針で刺されるみたいな小さな小さな痛みが見えないどこかを攻撃した。

無意識に足音を立てないようにしながら声を頼りに二人の影を探す。
(あ、)
数学準備室の廊下側の窓に、目当てのものを見つけた。

「……だな」
「なっ…!」

桜場は、オレには聞こえない小さな小さな音量で何かを彼に囁いて、彼は瞬時に赤くなる。
(……変なの)

あんなにも、わかりやすく感情を出す清水を、みたことなんてあったかな。
あんなにも、嬉しそうに笑う桜場を、みたことなんてきっとない。

「お前な、じ、自意識過剰にもほどがあるぞっ!」
「オレの勘違いだと?」
「あ、当たり前だっ」
「ほお」

(…なんだかな)
胸の辺りにあったオレンジの感情が、すごい速さで頭のほうへ駆け上がっていく感覚と
胸の辺りにあった赤色の感情がすぅうと温度を無くして肌に溶け込む感覚がした。

(変なの)
すごく、変だ。
なれない感覚に違和感を覚える。名前も知らない感情なのに、頭に浮かぶのは的外れなものばかりで。
寂しいなんて、悲しいなんて。今、そんなこと思うわけないのに。


「…つかれた」

くるりと振り返った。少しも運動とかしてないのに口から出た言葉に自分でおかしなこと言うな、と思う。体は勝手に音を殺す。

始まりもしなかった何かが、終わったにおいがした。


(あ、課題やんなきゃ)

まぁいっか
あとで清水にみせてもらおう。




 





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -