惚れたモン負け



ありがとうございました、と決まり文句のように言って体を折るように礼をする。わああっと歓声が上がり、拍手の雨が二人に降り注いだ。

客のリアクションは上々だったが、目標を高くしていたため長谷部は気に入らず舌打ちしかける。
苛立ちを飲み込んで、小走りで舞台を後にした。



「お前、またあそこ噛んだやろ」
「仕方ないやろぉーうまいこと舌回らんねん」
「前も聞いたわその言い訳」

裏方へ来ると同時に長谷部は相方にダメ出しをした。自分とは反対に彼は今回の出来は悪くなかったと感じているらしく、それがさらに長谷部を怒らせる。
「お前な、いい加減真面目に稽古せぇよ!」
「してるやん」
「してへんやろ!ネタも考えんと毎晩毎晩遊び回って!」
「なんやねんいちいち。お前俺のストーカーかいな」
「なんで俺がお前なんかについて回らなアカンねん!気色悪いねんお前は!ずーっ…と杉田とおるやろ!?」
「あぁ?!なんでお前にそんな…って、あぁ」
「あ?!」
「なんや長谷部、お前杉田に妬いてんの」
「…は!?」
「そーやな、最近お前の相手できてへんかったもんなぁ、今日家来るか?」
「なんでそうなんねん!アホかっ!」
「えぇやん昔みたいに俺ん家でネタ合わせしよーや」
「せぇへんわっ!」

一通りの口喧嘩の後、目を丸くするスタッフも作家もスルーして、二人はすいすいと人の波を縫ってどこかへ消えていく。

「あら?あの二人どこ行くんですかね?」
「いいの。ほっときなさい」

若いADの言葉を、プロデューサーが制す。
「ったく、遠藤が押しよわいのよ」
「はあ…漫才の話ですか?」
「いや恋愛の…いや、ほらあんたっ!大道芸の鴨志田さんのとこに差し入れ弁当2種類しかなかったのよ!はやくもってきな!」
「は、はいっ」
プロデューサーは全てを知っているものである。








「なぁ、機嫌なおしてや!次は気ィつけるって」「るっさいな俺はもともとこういう性格や」
「何ゆうてんねん。長谷部はもっと可愛いわ」
「かわっ…!?」

そこで長谷部の声が途切れた。
唇が塞がれてしまったからである。
「んっ、く」
喉の入口を一歩入った場所で唸るようにすると、遠藤の舌が長谷部のそれを捕らえた。
「ッ…んん、ん…ぇ、ええかげんにせぇっ!」
「げぇぼっ!?」

さすが芸人と言ったところか。
長谷部はいい具合に間をとってからキレのある突っ込みで遠藤を突き飛ばした。遠藤はボケらしく大きなリアクションをして返す。

「おうおう。顔真っ赤やでー長谷部くん。かぁーいー」
「黙らんかボケぇッ!!」

言われた通りの顔色の長谷部はごしりと口元を拭うと上目遣いに彼をにらんだ。
「…か」
「ん?なんて?」
「ひ、ひさびさにやろーか、言うてんねん。ネタ合わせ…お前ん家で」
「…よっしゃ!」

素直にガッツポーズする遠藤に長谷部はこっそり微笑む。
「機嫌直ったんやな」
「ダァホ、ちゃうわ。気ィつこてんねん」
「さいですかー…あ、帰りコンビニ寄ってもええ?」
「あ?なんでやねん」

「ゴム買っ―…」

遠藤の言葉が止まった。
相方の平手が後頭部にたたき付けられたからだ。

「だぁっとけ!」
「いってぇええ!」


この日、遠藤宅でなにが行われたかは言うまでもない。

 




End





北陸在住なもんで、関西弁おかしいです…芸人さんだいすきです…ごめんなさ…ツッコミ受け派です…ごめんなさ…



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