なんてことない日常だった。
どこにでもあるような、きっと人に話したところで『ふーん』で終わってしまうよな学生生活だった。
なんだかそれが俺にとっては苦しくて苦しくてたまらなかった。
地球の隅っこで、ぽつんとしている自分がたまらなくいやだった。
いつも俺が遠くから見つめている世界の中心に立つお前が俺の場所までやってきたとき、俺はなんだか不安になった。
「つまんなそうな顔してる」
「えっ」
「優等生は体育祭なんかやってらんねえの?」
「…いや、べつに」
「じゃあなんで?グラウンドはめっちゃ盛り上がってんのになんで優等生くんは中庭に居るの」
「…居ても、迷惑だろ。俺なんか」
「なんで。たのしーのに」
「…じゃあ戻ればいいだろ。楽しいんだったら。俺はここに居る」
「なんでだよ」
「俺だって馬鹿じゃないんだ、向き不向きくらいわかる。…役割分担があるんだよ」
「役割?」
「俺は期待される優等生。君は学校を盛り上げる人気者。バランスで成り立ってるんだよ」
いつも一人になって、黙々とただひたすら考えていた言い訳を初めて人に話した。
ふたりきりになって、気が緩んだのかもしれない。いつか言ってやろうと思っていたから、我慢ならなかったのかもしれない。
「ふーん」
俺よりも10センチ近く高い身長、整った容姿、優しさをちらつかせる低音、時間かけていそうな赤茶色の髪。
彼よりも10センチ近く低い身長、平凡な容姿、少し高めに響くこの声、手ぐしで整えた程度の黒いごわごわした髪。
あまりに違いが多すぎて、間違い探しになってない。
「じゃあ、」
「え!?」
俺が寄りかかる校舎の壁。左側に立っていたはずの彼もなぜか背中を預けた。
「な、なんで座るんだよ!」
「オレの役割はいじけてる優等生くんと仲良くすることなのです」
「わけのわからないことを…」
「わかんなくないでしょー」
こいつの話し方は嫌いだ。
なにが楽しいんだ、と言いたくなってしまうような口調がたまらなく腹が立つ。
「苦手だ」
「え」
「お前みたいなタイプ」
「あー…」
「わかるだろ」
「そりゃまぁ」
「だったら、どっか行ってくれ。…お前と居ると落ち着かない」
自分にはなにもないと思い知らされる。
『お前頭いいな』なんていわれても、勉強ができることと頭がいいことは全く別なんだと知ってしまっている俺にすれば空しいだけだ。本当に頭がいいやつってのはただ勉強をしていれば報われるわけじゃないと知っているもんだろう。俺は夢も目標も決められなくて、それも存在していたくて、脳に文字の羅列をしみこませていくだけで。
俺がどんなに欲しくても手に入らない物を、お前はたくさん持っている。
「いやだ」
顔をあげた。なんで、という問いは声にならず胸のあたりに帰って行った。
「坂本はいろいろ難しく考えすぎだよ。頭のイイ奴ってのは大変だな」
(お前までそんなこと言うのか)
「…っくない」
「えっ」
「頭なんかよくない、できることがないから勉強してるだけだ」
顔を伏せた。
「泣いてる?」
「泣いてない」
にしても、こいつよく俺の名前覚えてたな
「…こんなこと言ったのお前が初めてだよ」
そして、きっとお前が最後だ。
「優等生」
「その呼びかっ…」
「好きだ!」
「……………………は?」
きらきら光る彼の瞳に映る自分は、見たことない顔をしていた。
「笑うとかわいいな、お前!!」
「頭大丈夫か」
(ってか、笑ってたか?俺)
彼の後ろでさらに光る強すぎる青空が、あんまり綺麗で知らない感情が顔を出す。
魅力的だが届かない空に恋をするのは、やめたほがいいだろう。
「あーもーたまらんちゅーしていい?」
「ほんとに大丈夫かお前」
オワリ