▽五回目 ファイ




◎世界線

動物と人間のハーフが、奴隷や人体実験に使われている世界。ハーフが隠れて住んでいる都市は、全体的にスラム街のような雰囲気。

寒冷地で、底冷えするような冬が続いている。
人間の世界もハーフの世界も文明は発展しておらず、移動手段は汽車や馬車。三年もの間、ずっと真冬の気候。そのため食物が実らず、ハーフが食用とされているところもある。
人々の生活は暗く湿っている。




かつて、突然変異で生まれた、動物の性質を持った人間がいた。小さな集落で生まれた彼は、心優しい両親や民に恵まれ、健やかに育っていった。

そうして彼も大人になり、愛する人と結ばれ、子を持ち、…それが果てしない時の中で繰り返され、人間とハーフとの比率は、ほぼ同じものになっていった。



が、とある日。突然のことだった。
国のトップを決めるための、選挙が初めて実施された。
正義感があり、清く正しく、素晴らしい人間。そんな人物が当選し、人々は浮かれ、喜んだ。きっとこの世をより良くしてくれるはず。


だが、彼が初めて行った政策は―ハーフの迫害、大虐殺だった。







◎お話

焦ったような声で怒鳴られ、目を覚ますスキクー。
自分の姿を見ると、特に海水で濡れていることはない。服装はブレザーから、まよなかの着ていたのによく似た、セーラー服になっていた。



彼女を起こしてくれた男の子の名前はファイ。
グレーの髪色、褐色の肌に青の瞳。華奢な身体に見合わない銃火器を抱えている。ヘッドフォンをつけていて、その下には犬の耳が隠れている。
犬種はシベリアンハスキー。外見年齢はせいぜい十歳ほどだが、本来の年齢は七十歳。


ファイはヘッドフォンで耳を隠し、尻尾をズボンに押し込んでいるのに対して、道端で倒れているスキクーは耳も尻尾も出しっ放しにしていたので、気になって助けてくれたらしい。


パーカーを買ってきてもらい、それで耳を隠す。尻尾は無理矢理スカートの中に入れ込む。

耳と尻尾がなくともオッドアイなんて珍しいから、捕まったら危ないと言われるも、自分がこの世界でどのように暮らしてきたか分からないスキクー。

不憫に思ったファイがスキクーを連れて行く。隠れ家として使っている場所には、ファイの他にハーフが三人。猫の女性、クラゲの男の子、ハムスターの子ども。




そのまま隠れて一年近く暮らす。

スキクーはこれまで世界を転々としてきて、自分の死ぬ時間が大体分かっていた。そして、誕生日の月の初めにその隠れ家から姿を消す。

自分がどうやって死ぬかは分からないけれど、死んだ姿を彼らに見せたくないし、もし人間達や実験施設に勘付かれて殺される状況になった場合、同じ場所に居る彼らも危なくなる。



聴覚や嗅覚が優れているファイは、スキクー夜中にそっと出て行ったことに気付き、追いかける。
彼女は最期だからと言わんばかりに、街から離れた森の中で、胸元を満月に晒して、鉱石を浄化させていた。



案の定、実験施設の人間に見つかり、殺されそうになる直前にファイが助けに来る。
が、スキクーはもうどうやったって自分が死ぬことを知っていて、ファイにそう説明する。それでも、彼女の考えは一蹴される。



追っ手が来て、ファイが銃器や重火器を地面に並べて用意しつつ、自分がつけていたヘッドフォンをスキクーに無理矢理付ける。惨たらしい銃撃戦でうるさくなるだろうから、と。


飛んでくる麻酔銃。洞穴や岩陰に隠れてやり過ごしながら、応戦するファイ。だんだんと施設の人間の反撃が衰えて、静かになっていく。




やりきった、逃げ切った、と滅多に見せぬ笑顔を浮かべて、彼女を振り返るファイ。が、その後ろに施設の人間が居て、ファイを捕まえようとする。鋭いナイフが、月光でぎらぎらと光っている。


スキクーがそれに気付き、彼を庇った。
ファイが絶望的な表情をしながら、そいつを銃殺する。もう助からないであろう、大量の血だまりの中にいるスキクー。


ファイの頭を撫でて笑った彼女は、冷たくなっていく。
子ども扱いするな、と喉奥から絞り出すように吐いた言葉は、彼女の耳に届かなかった。



銃撃戦の轟音と、二人が消えていることに気付いた三人が、隠れ家から飛び出した。
痛いくらいの寒さが耳や指先を刺す。探して、探し求めて、見つかったのは、真っ赤な色に染まったスキクーと、その躰を抱くファイだった。

愚かな人間が憎い。もうこんな世界、壊してしまいたい。でもきっと、彼女はそれを望まないだろう。
どうしたら、どうすれば。



しんしんと、雪の降り積もる夜だった。







◎付属要素

ヘッドフォン




◎要約

道端で倒れているスキクーを救ったのは、犬のハーフであるファイだった。
彼女を隠れ家まで連れてくると、仲間たちに紹介をする。どうやら仲良くなれそうだ!

ここは人間とハーフが存在する世界。でも仲がとっても悪いみたい。

まよなかの居たあの世界のように、共存できたらいいのになあ。思い出話をするみたいに、彼らに話す。絵空事だと笑われてしまったが、満更でも無さそうだった。クラゲの男の子なんか、いつか世界を変えてみたい、と豪語したもので。
…あれ?もしかしてこの世界って。


危なっかしいことは多々ありつつも、仲睦まじく、慎ましく暮らす。そろそろ一年が経とうとしていた。
スキクーはぼんやりと思い返す。今までの世界のことを。廻守の話を。

そして、決意した。皆を巻き込んではいけない。
夜中にそっと家を抜け出すスキクー。が、ファイはそれに気付き、後を追う。


実験施設の職員に見つかり、捕まりそうになるスキクーを助ける。
そして、ファイと施設の人間たちの銃撃戦が始まった。雪はどんどん強くなり、地面に積もっていく。

勝った。ファイがそう思った瞬間、彼は施設の職員に背後を取られていた。
スキクーがそれを庇い、血を流して倒れ込む。嘲笑う人間に銃弾を撃ち込み、彼女の元へ駆け寄った。

ひとこと、ふたこと。短い会話を交わして、スキクーは冷たくなっていく。


彼は、彼らは、ただただ積もりゆく雪と悲しみに埋まった。
世界を変えたい。そう思いながら。






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