▽一回目 壱川先生



◎世界観

いわゆるカトリック系の全寮制ミッションスクール、でのお話。

が、ここでは現代世界においてのキリスト教が存在していない。独自の文化が進み、人々はそれぞれ別の神を信仰している。その宗派、宗教も様々。
宗教の名はヒルダンテ教、リンズール系。リンズールとは架空の言語で、「ありふれた」と言う意味らしい。



世界としては非常に小さく、生物は人間と動物のみ。


スキクーの住む国、アスベルリアには大きな河川があり、文明が発展した理由の一つにもなっている。諸外国との仲は極めて普通。中立的な立場になることが多い。


海があり空があり山があり、自然がある。が、宇宙や惑星といった存在は全く無いとされている。太古の昔、もっとこの世界を知りたいと飛空艇で空へ旅立つ人々が居たが、霧のようなものに包まれ、消息不明。

空の向こうに何があるかは未だ解明されていない。何もない、と結論付けた学者が殆ど。研究費用は少ないが、細々と研究を続けている者も居る。

空に星は見えず、昼や夜といった概念がない。国によって独自の時の流れ方があり、アスベルリア国民は出生した瞬間から、砂時計を手渡される。





◎お話

この世界でのスキクーは、女子高生の姿をしている。長めの黒髪にヘーゼルグリーンの瞳、モノトーンを基調とした清楚な制服。
シスターになることを志していたが、それほど信心深くもなかったようだ。


高校三年生。修道女ばかりの高校に、唯一の修道士として、壱川と言う名の教師がいることは知っていた。彼が、担任になったのだ。



彼は、ひょろりとした長身の痩せ型で、ローマン・カラー付きのシャツの上に黒いスーツを着込んでいる。
ぼさぼさの黒髪、三白眼で目付きが悪く、極め付けには尖った八重歯。何故か生傷が絶えず、絆創膏や包帯を、身体のそこかしこに付けていた。
ヘビースモーカーのようだが、流石に教師としては煙草が吸えず、彼はよく棒付きのキャンディを咥えていた。



壱川とスキクーは、ふつうの生徒と教師の間柄にしては、とても仲が良かった。初めて会ったときから、お互いがお互いを「どこかで会ったことがある気がする」、そんな存在だと認識していた。
そして彼女は、彼のことを好きになってしまった。




スキクーが高校を卒業する少し前、とある屋敷に壱川とやってきた。
彼の住むその屋敷には、教会の許可を得て作られた礼拝堂がある。


誰にも口外をしないと言う約束の元で教えられた彼の秘密。その礼拝堂の中に、戦火の中で滅びてしまってレプリカ以外存在しないはずの、聖母エルテ――ヒルダンテの母――の像があると言うことだった。


誕生日祝いにそこへ行きたいと壱川に頼んで、誕生日の前日に連れてきてもらったのだ。




だが、実は壱川は数百年もの間を生きている吸血鬼で、生徒の中から毎年誰かひとりを選び、その血を吸い尽くしていた。


人間の世界に溶け込み、リスクを冒し続ける彼には、どうしても生き返らせたい人がいる。
それは屋敷の地下の棺のなかで、死んだように眠る少女。
仮死状態である少女の生命を維持するために、一年に一度、同じ年頃の処女の血を飲み干し、少女へ口付けを交わすことが必要だった。



地下で眠る少女を見つけてしまったスキクーは、言葉を失う。姿形は全く似ていないのに、その少女と自分が、同じもののように感じた。瞬間、記憶が蘇る。情報量に頭の中が破裂しそうになる。


古びた記憶の、もう散り散りになってしまった欠片たち。その中で、スキクーは、その少女として存在していた。


壱川は何も知らぬまま、スキクーを背後から抱き寄せて真正面を向かせ、その首筋に牙を這わせる。
咥内にひろがる血液の味に懐かしさを、違和感を感じて、でも、もう止めることはできない。がくんと頽れ、息も絶え絶えな彼女が、壱川の黒い瞳を見つめて唇をひらいた。


「また、会えたね」


その声。その言葉。彼は気付くのが遅かった。
スキクーは、壱川に殺された。




◎付属要素

噛み癖、飴をよく食べる




◎要約

シスターを目指すスキクー、その担任の壱川先生。ふたりはとってもなかよし!
が、なんと吸血鬼である壱川は、スキクーを騙し、彼女の血を吸い尽くしてしまった!
全ては、仮死状態で眠ったままの恋人を生かし続けるため。

けれど、いつしかのあの日、彼と愛を誓った少女は、過去のスキクーなのだった。
今ある少女の身体は、壱川先生が色んな人間のパーツを組み合わせて作ったもの。

彼女を生かしたかったのに、その彼女を殺してしまったかわいそうなお話。偽物を生かして本物が死ぬ。
せっかく何百年も生き続けて、探し求めて、やっとまた巡り会えたのにね。




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