隠して恋情
気づかない
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 私の元の家は旧家の本家である。父と母の間に生まれた一人っ子の長女。それが私、寺崎愛弥だ。ごく普通のお転婆な女の子で、ケガを毎日作るような、今では考えられないくらい活発な幼少時代を過ごしていた。大好きな両親としょっちゅう家に来るいとことの生活はとても楽しいもので、きっと、当時の私は幸せだっただろう。今が不幸せと言うわけではいが、あの頃と同様に幸せだと感じたのは神崎君と付き合うことになった日くらいだと思う。
 ある日、私を叔母さんの家に預けけて両親は叔母夫婦とパーティーに出掛けた。こういう日は何度もあって母曰く、子どもは知らなくていい世界なんだとか。だから私はもとより、妹弟も出席したことがない。
両親はいつも通り叔母の家に私を預けて、私は晩ご飯を作って妹弟と食べて、迎えに来た両親と自宅に帰るはずだった。なのに、それは無情に落ちていった。両親が乗ったタクシーが玉突き事故に遭ったのだ。事故を起こした運転手型は飲酒運転をしていたから、罪に問われることになったらしい。叔母さんから聞いた話だ。小学六年生。私の日常はすりガラスのようにあっさりと砕け散った。当時は両親の死が受け入れられなくて威自室に閉じこもる生活をしていた。惰性で晩ご飯だけ食べていた記憶がある。そんな生活を続けていると叔母が妹弟を連れてきてやってきた。細くなった私を見て妹弟は泣いていた。今でこそ別の高校に通っているが、私が中学を卒業するまでは同じ学校に通っていたのである。だから、私が学校に行っていないことは叔母に筒抜けなのだ。叔母は母が嫌いだった。調子と言うだけで寺崎本家の財産をすべてを持っていった母の娘の私も嫌っている。私も両親の死後、引き継ぐ区都が決まっているからだ。でも、外聞を気にする人だから、妹弟と様子を見に来ただけ。妹弟を連れてきたのは騒がしかったからだと推察している。叔母は言った。「私が引きることになりました。葬儀が終わり次第、引っ越しの準備をしなさい」と。小学生の私がどうこうできる問題でもないし、まして何もできない子どもだ。私は叔母の言葉に従うしかなかった。妹弟からは「これからはずっと一緒にいるから」と言われたっけ。それから私は叔母も叔父も滅多に帰らない家で妹弟と暮らすことなった。家事は私が得意であったから私の仕事。当時は両親死んだことを認めたくなくて、考えたくなくてしていたが、今は好んでしていることだ。
高校に上がって、私は通っていた小中高一貫校から別の公立高校に入学をした。腫物のように扱われて居心地が悪かった、と言うのが本音だ。でも、それでよかったのかもしれない。部活仲間や友人にも出会えたし、何より神崎君に会えた。元々通っていた高校にいたら、私は恋をすることは叶わなかっただろう。だから、私は飛び出して良かったんだと思う。
くすり、と笑って私は上を見た。太陽の日が沈み、影が長く映る。隣にいる神崎君は訝しんで私を見た。


「どうしました? 先輩」

「なんでもないよ。ただ、幸せだなって」


 妹弟がいて友人がいて部活仲間がいて。神崎君がいる。今は幸せだ。胸が温まる。


「俺も」

「え?」

「俺も幸せですよ。先輩が隣にいるから」


 赤面した私は悪くないはずだ。
 今日も今日とて一緒に帰る途中の道。送ってくれるという神崎君にも慣れ始めて、私の家まで歩く。家が見えてくると、反対方向から妹弟が帰ってくるのが見えた。家の前で鉢合わせて、そういえば、神崎君と付き合うことになったことを言っていないのを思い出した。この際だから言ってしまおうか。


「姉さん、神崎さんと返ってきたんだ?」

「うん。実は――」

「付き合ってるの?」


 問いかけたのは愛樹。普通に訊いているはずなのに、その目はどこか冷たく感じた。どうしてそう思ったのかわからない。愛衣も愛衣でどこか冷たい表情をしているように思える。笑顔を向けてくれているのに、いつも見ない冷たさにざわつく。誰だろう。この二人は私の知っている妹弟なのか。ぐるぐる思考が回る。


「この前、文化祭から付き合うことになった」


 神崎君の言葉が遠くに感じる。自分で思っている以上に混乱しているようだ。


「そう、ですか。姉さん、そそっかしいところあるから、気を付けてくださいね」


 先に入ってるから長話はだめだよ。愛衣が言って二人は家に入る。ここにいるのは私と神崎君だけ。


「じゃあ私、家に入るね」


 玄関に入ろうとド絵の部に手をかける。空ける手を止めたのは、神崎君の声だ。


「あの、先輩」

「ん?」

「デート、しませんか? 来週の日曜日」


 たっぷり数秒開けて、私は「……うん」と頷いた。何か焦った私は即行で玄関をくぐった。顔が熱い。デート。初めての響きに私は恥ずかしくて、けれど浮かれていた。その横で、傷ついた人がいるとも知らないで。


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