隠して恋情
聞きたくない
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案の定、と言うべきか、「告白大会」に客を持っていかれたようで教室はガラガラ。みんな休憩モードだ。
「すみません、遅くなりました!」
「いいわよ。『告白大会』にみんな流れたから」
「ありがとうございます」
「ま、遅れた原因は神崎から聞いているから安心しなさい」
「はい」
部長は座ったまま、窓の外を見た。この部屋はちょうど、「告白大会」が行われている中庭が見れる場所だ。今は、男子が女子に告白をして、オーケーを貰ったところである。マイクを通しているからよく聞こえる。
私は友人を見つけて、正面に座った。
「神崎、引っ張られて行ったけどよかったの?」
「いいよ。他人の告白を邪魔するほど人は悪くないし」
「そうよね〜。あんたはそういう人よ」
友人は何やら呆れた顔をしている。何があってそんな顔をしているのかわからないが、学校で見るときはだいたい、私と神崎君のことが多いと思う。
「神崎、頑張ったのになぁ」
「何が?」
「本人がこれだよ」
呆れたような友人に私は首をかしげる。神崎君、何を頑張ったの? 私の様子に友人は溜め息を吐いた。私と神崎君の間に先輩と後輩以外の関係は無い。先ほどの出来事で考えることはあったが、それを恋愛の好意と受け取っていいのかわからない。いや、嫌いならしないはずだし、送ってくれることもないとは思う。けれど、好かれているのかと訊かれたら、私は「先輩としてなら好かれていると思う」と答える。それが一番、波風を立てない方法だと思うから。そこに神崎君の意思がない。だって、まだはっきりと、「好き」と言っていないし、言われていないからだ。伝えたら、変わるのかもしれないけど、今はまだ、先輩と後輩のまま。なんだか寂しくて、俯く。「そんな落ち込むなら一緒にいればよかったじゃない」と言われる。けれど、言えるはずがない。そんなこと、彼女でもないただの先輩が言えるわけない。面倒くさい性格をしていると自分でもわかっている。でも、最近認め始めた気持ちなのに、独占欲みたいなことを言えるはずがない。少なくとも、私は言えない。友人もそれがわかっているのか、「ま、あんたじゃ言えないか」と諦めたように言われたが事実なので何も言わないでおく。
「でも、神崎君を連れてった子、寺崎は知ってる?」
「ううん。電話で知ったから知らないよ」
「学校一の美少女らしいよ。顔は良く見えなかったけど」
「ふうん。もし付き合うことになるんだったら『おめでとう』って言わなきゃね」
「本気で言ってる?」
「まさか。神崎君が場の空気に流されないことくらい知ってるよ」
神崎君は場の空気に流されたりはしない。それは約半年間、見てきたか知っている。気遣いができるけど、口調が少しきつい優しい子。私なんかよりも似合ってる子はたくさんいる。私は、見ているだけで十分だ。
「あ、次、神崎よ」
部長の言葉にどきりとする。わかっているのに、緊張が走る。
「神崎直君」
「はい」
「好きです! 私と付き合ってください!」
女の子の告白する声が遠く聞こえた。