天体流星―星の宿り―
肝試し
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 北は織姫と上条を見ていた。憎いものを見るような目をしている。隣には銀髪の青年がいた。北とは違い、羨まし気にみている青年はふと呟く。


「あいつは星宮織姫のどこが良いのだろうな」

「あなたは星宮織姫のどこが良いと思ったんですか?」

「……分からない。あいつなんだ。ただ、一目見た瞬間にあの人はこいつだと思ったんだ。あいつじゃないといけない。そんな気がしたんだ」


 青年は物欲しげな表情で織姫を見つめる。手を伸ばしてぐっと握りしめた。


「星宮織姫は俺のものだ。長い年月の間、行方知らずになっていた俺の女が見つかったんだ。誰にも渡さん」

「嫉妬深いですね」


 北はくつくつと楽しそうに笑う。北は上条が嫌いだ。織姫に近づいていることは関係なしに、最初から嫌いだった。誰にも笑顔を振り撒き、愛想が良い。それに加えて気さくだ。自分と違うところと言えば嘘ではないが、北にとって上条は、受け入れ難い存在だった。


「楽しそうだな」

「ええ、まあ」

「構わないがな。お前が俺を裏切らなければ」

「裏切りませんよ。あなたは僕のすべてですから」


 その言葉に北は笑みを浮かべた。感情のある本当の笑顔だ。


「星宮織姫を引き続き監視しろ」

「はい」


 青年は北に背を向けて歩く。青年の嫉妬は北が一番分かっている。こればかりは、北でも止めることは出来ないことだ。
 時間も過ぎた薄暗い夜中のこと。一年二組の担任は面倒そうに説明を始めた。


「肝試しはこのクラスだけで行う。肝試しと言っても脅かし役はいない。指定されたルートを行って、課題をクリアするだけの簡単なものだ。じゃあ、くじを回すから引いてけ」


 本当にくじなんだ。織姫はぼうっとそれを聞いていた。男女別だと遅くなるかもしれないから男女混合との案配だ。女子は仲の良い子や好きな人と一緒になりたい等を話し合っているが、男子は女子とは別の意味でそわそわしている。気持ちは分からなくもないが、と上条は思う。上条もまた、女子と一緒になりたいのだ。女子、というより織姫と。そんな上条の願い虚しく、織姫は一人。一年二組は合計で三十一人。必ず一人は余る。その余りが織姫だった。上条は不安になった。星宮は一人で大丈夫なのか、と。


「じゃあ順番に行けよ」


 少々適当な節があるが、それが一年二組の担任だ。順番に暗闇の中に生徒たちは入っていく。生徒の姿が見えなくなってから十分は経っただろう。次のペアが行く。それが繰り返すこと数十分。上条の番だ。しかし、上条は織姫が気になる。今は担任がいるとはいえ、一人で行動することになる織姫。上条はペアの女子に腕を組まれながら、深い森の中へと入っていった。
 織姫はじっとそれを見つめた。頬が少し赤い。表情も少し暗い。あ、と声が漏れた時には、上条の姿は無くなっていた。


「織姫、どうかした? 大丈夫?」

「ん? 暗いから足下大丈夫かなって思ったの。ほら、もう上条くんが見えない」


 たった数歩歩いただけで見えなくなる暗闇の中に上条は消えていった。


「次、ちーちゃんの番だよ」


 織姫は明る気に返す。千里をペアが呼び、会話は終わった。再度暗闇の中へ視線を向ける。何も無い暗闇の世界。角灯の灯りだけが頼りだ。


「大丈夫。大丈夫」


 角灯を手に織姫は暗闇へ足を踏み入れた。角灯だけが頼りの道は時間を長く感じさせる。恐怖心が織姫を焦らせた。ああ、早く帰ろう。織姫は足早に歩く。ほとんど前も見えない状況で一人、織姫は歩き始めた。


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