天体流星―星の宿り―
手許の行為
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 高校に入学して、初めての泊まりがけ行事が臨海学校だ。それは一年全員参加で、来ないなら欠席扱いされるというもの。生徒たちは欠席扱いは気にしないが、学校行事そのものは楽しみでいた。だから、誰も休むことなく、臨海学校に参加している。しかし、高校生なのに何故臨海学校を、と思う生徒は何人かはいる。それでも楽しみは楽しみにしているのだ。


「星宮!」

「上条くん?」

「船の中、探索しない? 一緒に行く奴ダウンしてさ」


 それは上条も例外ではない。普段からあまり乗らない船の旅だ。小さな船だが、一学年全員と教員が乗れるくらいには大きい。


「上条くんなら、一緒に行きたいって人いっぱいいるよ?」

「嫌だった?」

「そんなことないよ。私も友達が気分悪くなっちゃって。この船大きいから、ちょっと見学したいなって思ってたところ」


 上条はそうこなくちゃ! と織姫の手を取った。


「行こう?」

「うん」


自然な流れで手を握る二人を見ている女子生徒がいた。ギリギリと手を握り締めている女子生徒の存在を、織姫はもちろん、上条も知らない。


「上条くんは何で私を誘ったの?」

「星宮ともっと話したいと思ったから」

「でも、女の子からお誘いあったんじゃない?」

「星宮……迷惑だった?」


 そんなことないよ、と織姫は言う。上条は不安げだった。織姫と話したいからと手を取ったのだ。織姫が迷惑なら、誘わない方が良いと思った。だから卑怯なことを聞いた。織姫は否定しないと思ったから。案の定、織姫は否定しなかった。不確定だが、上条は分かっていた。織姫の答えを。


「星宮さんに上条くん。どうかしたんですか?」

「うわあ!?」

「北くん!?」

「はい」


声をかけたのは同じクラスの北だ。二人はそれに驚いた。北は重なる織姫と上条の手を見る。


「……違うのに」

「え?」


 北のそれは呟きで、二人にそれは聞こえなかった。首を傾げる織姫と上条に対して、北は何でもないと告げた。


「僕は行きますね」

「うん。またね」

「そうだ。星宮さん」

「何?」

「色々、気を付けて」


何を、と訊く前に北は背を向けた。それに織姫は訊くタイミングを逃した。


「上条くん、周りには気を付けてくださいよ。星宮織姫は、僕たちのお姫様≠ネんですから」


呟いた声は、誰にも聞かれないままそこに消えた。





見渡す限り海が広がる浜辺は細かく白い。海はマリンブルーと言えばその通り、海特有の水底まで見える緑のような青だ。ホテルから見える海に行きたくてうずうずしている生徒はまだ良い方で、中には早く終わってくれと言ってくる生徒まで出てくる始末だ。教師も黙っておけば早く終わると返すが耳を傾けないのが中高生である。教師は諦め、必要最低限のことだけを言って解散した。
織姫は友人たちと会話を始め、上条は話しかけるタイミングを逃してしまった。そこにクラスメートに捕まっている間に、織姫は部屋を出ていった。


「あ」

「上条?」

「いや。行こうぜ!」


 上条はいつもの明るく元気な笑顔でクラスメートとふざけあう。――ああ、なんてタイミングの悪い……。上条は落胆を悟られないよう、溜め息を一つ吐いた。


◇◆◇◆◇


「ねえ、織姫」

「何? ちーちゃん」

「最近上条と話すよねー」

「まあ、クラスメートだからね」


織姫は友人と海に足を浸けた状態で話をしていた。たまに歩いたり蹴ったりし、弾かれた海水はきらきらと光っている。


「でも、自分からは話しかけないよね」

「用事も無いし、話すことも無いもん」

「織姫にその気が無くても、みんな誤解するよ」

「そうそう。性格面からも良い方向に誤解してくれるよね。織姫もそれを裏切らないから余計に、ね」


 良いでしょー、とそれに乗っかる織姫は笑って、水をかけた。


「わっ! 冷たーい」

「そりゃ水だもの」

「……」

「織姫ー?」


 呆けて遠くを見つめる織姫。織姫を呼ぶ声が聞こえていないのか、沖の方へと歩き出す。友人たちは織姫を呼ぶが、止まらずに入っていく。


「ちょっ! ほんとどうしたの!?」

「行かなきゃ……」

「星宮!」


 織姫の手を掴み、自分の胸に倒れるように上条は引っ張った。


「……上条くん……?」


 瞬きを繰り返し、何があったかわからないという風な織姫に友人と上条は困惑する。ただ、無事で良かったと安堵した。


「気づいた?」

「えっと……」

「あ。ごめん!」


 何やってんだ! と上条に向かって飛び蹴りをするちーちゃんこと千里智利。飛び蹴りで海の中へと沈む上条。それを見ることしか出来ない織姫。いいぞもっとやれと煽る織姫の友人。何が起きている、と織姫は思う。


「織姫も! 何で沖に向かおうとするの!」

「え?」

「え? じゃない! あんた今! 沖に向かって歩いてたのよ!?」

「……ごめんなさい。心配をかけました」


真剣に頭を下げる織姫に千理も、許すことにした。ただ、分からないことがある。何故、海へ入ろうとしたのか。それは智利に分かるはずがない。織姫自身も分かっていないように見える。だから考えないことにした。


「星宮、大丈夫?」

「……」

「星宮?」

「……あ、うん。ごめんね。大丈夫だよ。ほんとありがとね、上条くん」


何でもないよう笑う織姫に、上条は何も言えなくなった。


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