「…陽菜より、っと」
お部屋に戻ってからはずっとカレンとミヨへのお手紙を書いていた。あたりはもうすっかり暗くなった。途中夕食を挟んだこともあって、だいぶ時間がかかってしまった。
誤字脱字がないか確認するために軽く流し読む。
お手紙には、お茶会やりたいねってお話と、今日のことも少し書いた。
聖司さまとお買い物。久しぶりのお買い物はとても楽しかったし、聖司さまとちょっと仲良くなれた気がして、嬉しかったと。
ずっと椅子に座っていたためにかたまってしまった体をぐーっと伸ばし、ベッドに転がる。
『まあ、俺も…楽しかった』
目を瞑ると、聖司さまの少し照れたような表情がうかんだ。初めてあったころはいつも眉間にしわを寄せて人を寄せ付けたくないというようなオーラを放っていた聖司さまが、わたしと一緒にいて楽しいって思ってくれたことが嬉しくてしょうがない。
起き上って、側に置いてあるドレスを引き寄せて広げる。
初めてお給料で買ったもの。―聖司さまが、わたしに似合うって選んでくれたもの。
喜びすぎかな?
聖司さまにとっては何気ない一言だったかもしれないけど…すごく嬉しかった。
しばらくすると、お仕事が終わった紗世ちゃんがつかれた様子で部屋に戻ってきた。
「おつかれさま!」
「ふ〜〜今日も疲れたよ〜…陽菜ちゃんは休日満喫できた?」
「うん!あ、そうだ。服ありがとう!洗って返すね」
着替えながら、別にいいのに〜とケラケラ笑う。
つられてわたしも笑うと、紗世ちゃんはニヤニヤしながら顔を覗き込んできた。
「なんか嬉しそうだね?いいことあった?」
「そ、そうかな?」
「なになに〜??気になる!」
「えっと…実はね…」
ベッドに正座して、キラキラと期待に満ち溢れた目でわたしを見つめる。
わぁ、どうしよう…別にいけないこととかじゃないのになんか恥ずかしいなぁ…。
実は聖司さまのお買い物のお供をさせてもらって、と言うと、紗世ちゃんは目を真ん丸に見開いて口をぽかーんと開けたまま固まってしまった。
「うっそ…あの聖司様が…!?」
「う、うん…買い物も久しぶりで楽しかったし、それでかも」
「なるほどね…そっかそっかぁ…」
驚きすぎたのか、どこか放心したようにあの聖司様が…と呟いていた。
お互いに寝る準備も終わったので、ベッドにもぐってしばらく雑談する。
「そういえば聖司様といえば…明日から3日間、お仕事で宮廷に行くらしいよ」
「宮廷に?」
「そ。なんかすっごい嫌な顔してたって枝野さんが言ってたなぁ。なんでだろうね?」
ふわぁぁ、と紗世ちゃんが眠そうに欠伸をする。
お仕事、朝早いもんなぁ…。わたしはお休みな上に昼寝までしちゃったから、まだ眠くないんだけど。
「そろそろ寝よっか。明かり消すね」
「ありがと。おやすみー…」
「うん、おやすみ」
明かりを消して、布団をかぶる。少しすると隣のベッドから小さな寝息が聞こえてきた。
紗世ちゃん寝ちゃったみたい。わたしもそろそろ寝なくちゃ…。
深く布団をかぶって、目を閉じる。自分の体温で布団が温くなってふわふわしてきた。
次第に意識が微睡んでくる。
(明日から聖司さまいないんだ…、寂しくなるなぁ……)
聖司さまとピアノの音を思い浮かべながら、ようやく眠りについた。
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