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時々落ち込んじゃっても、ポジティブな気持ちでなんとかなる気がするし、そんなのもアリじゃない? グローブ / Splatoon(comic) | 名前変換 | 6min | 初出20181218

POSITIVE

 大好きな彼女とのデートがあると、オレは決まって遅刻をしてしまう。やる気がないとか会いたくないとか、そういうネガティブな気持ちからではない。会いたくて会いたくて、夜眠れないせいである。今日着ようと思っていたフクが乾いてなくて、急遽コーディネートに時間を取られてしまうからである。でも、遅刻したオレが何を言っても言い訳になってしまうから、それはいつも秘密にしている。そして今日も、また遅刻をしてしまった。
「ごめん!」
 両手を合わせて、ただただ平謝りする。彼女は余裕そうにコーヒーの紙カップを傾けて、「今日は、一杯分で済んだよ」とちょっとした文句を言う。オレが待ち合わせに来るまでに時間が掛かるのを知っているから、彼女はいつもコーヒーを買って飲んでいる。オレは言い返す言葉もなくて、頭を下げ続けることしかできなかったけれど、彼女はすぐに笑って許してくれた。
 あーあ、もうちょっとクールなオレを見せることができたら、オレはなまえにとって自慢の彼氏になれるのにな。毎回思うことを、今日もまた、胸の内で繰り返してしまった。

 いつもは、最初の遅刻だけである。オレのやらかす失態は。でも、今日はもう最悪だった。ガチマッチに潜って連続で負けることがあると思うけど、まさにそんな感じ。クールでもナイスでもないカッコ悪いオレを、よりにもよってデートの日に発揮したくなかったのに……カミサマって、時々すごく冷たいと思う。

 今日の予定は、アロワナモールで買い物をしたあと食事をして、そのあとモールで開催されるバトルを少し観戦したのち、その辺の公園で二人だけでナワバリバトルをする予定だった。
 そういうわけで、モノレールでアロワナモールに移動する。改札をくぐるため、オレたちはICカードを取り出す。なまえが先に通って行き、オレはその後ろに続いていった。残金に不足はなかった。しっかりかざしたつもりだった。しかし、オレは改札に止められてしまう。
「えっ、グローブ? チャージしてなかった?」
 は、は、恥ずかしい! 空いている手で「違う、チャージはしてあるんだけど」の否定のジェスチャーをしながら、ICカードを高速でかざし続けた。アレって、一回止まると結構長時間足止めされるよな、意味ある時間なのか疑ってしまうほどに。やっと通れたオレの後ろには、ウナギみたいに長い列。小走りでなまえに近づき、照れ笑いをした。
「たまにあるよね。通れないの」
 なまえはそう言って肩を竦めた。オレは相槌を打って、「さ、行こう」と歩き出す。でも動揺のあまり違うホームに行こうとしていたみたいで、「そっち逆だよ!」彼女に腕を掴まれて静止される。
「グローブ間違えちゃうから、手繋いでてあげるね」
 そのまま手を繋がれて二番線ホームへ。嬉しいけど、喜んでいいのか複雑だった。

 そんなこんなでなんとかアロワナモールにたどり着いた。まずなまえがバラエティショップで文房具を買い、靴下の店で靴下を買った。オレはアロメの新しいクツが欲しかったから、クツ屋に付き合ってもらう。色々試して、時期も冬だし、あまり涼しすぎない素材のものを買った。新しいものの試し履きをして元のクツを履き直すとき、ビリっと不吉な音がした。布を引き裂くような……まさに、布が引き裂かれた音だった。これが本日三つ目のオレの不幸になるわけだけど、ジーンズの尻の部分が裂けた。
 今日イチの恥ずかしさだった。ワーだかウオワーだか、情けない声を発しながら尻を隠す。なまえもびっくりしながらオレの尻を隠してくれた。そしてすぐに「上着! 腰に巻いて、それで隠せるんじゃない?」と有り難すぎるアドバイスをくれた。それでなんとか事なきを得た。クツの支払いを済ませたオレは、代わりのボトムスも探しに行って、ちょうどいいものを買いトイレで着替えた。ああ、せっかくのコーディネートが……と思ったけど、尻丸出しじゃコーディネートもクソもない。
「グローブ、それもすごくお洒落だよ」
 心からそう言ってくれるなまえの優しさが沁みる。

 予定より少し遅くなったけれど、オレたちはご飯を食べることにした。それからバトルを少し観戦し、近くの公園へ移動した。今までの災難はなんだったのかというくらい、後半は何事も起きなかった。オレはスプラマニューバーを持ち、なまえはスプラシューターを持って、西陽の降り注ぐ公園でふたりだけのナワバリバトル。ピンクと黄緑をめいっぱい塗って、たくさん笑ったあと、オレとなまえは芝生にごろんと寝転がった。
 高く晴れ渡った空が眼前に広がっている。いわし雲に、暮れかかりそうな太陽。涼しい風と、心地よい疲労感。今日、色々あったなあ。ふと、思い返す。
「なまえ」
「なあに?」
「オレ、今日全然クールじゃなかったね」
「うーん、そうだねー」
「なまえだって、本当はクールなオレがいいよね」
 なまえからの返事はなかった。あれ、と思って彼女を見てみると、彼女は笑いを堪えている最中だった。
「グローブは、最高にクールだよ。わたしにとってはね」
 顔をこちらに向けて微笑んだ彼女は、本当に素敵で、可愛くて、最高の恋人だと思った。嬉しくて彼女に抱きつくと、芝生が舞って彼女がきゃっきゃと笑い声を上げた。泥だらけでも、かっこよくなくっても、いいや。隣できみさえ、笑っていてくれるなら。