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あなたもね、少しは勘付いてよ、そわそわそ。 ライダー / Splatoon(comic) | 名前変換 | 7min | 初出20181220

SO WHAT!?

 もう、どうしたらいいのか全然わからない。きみのことで頭がいっぱいなの。どうにかしたいのに、わたしが意気地なしなせいで行動に結びつかなくて、またわたしの思考がきみで支配されるの。遠くから見てるだけで充分だって……何度も言い聞かせてるけど無理。でも気づかれたくない……、もし嫌われてしまうくらいなら。
 そんなだから今日もまた、眺めるだけの一日が始まる。彼、ライダーくんは、ロビーでゴーグルくんと喋ってる。ふたりは仲がよくて、私が見る限りいつも一緒にいた。どちらかというと、人懐っこいゴーグルくんにライダーくんが構ってあげているという感じだけど。いいなあ、わたしもライダーくんに構われたい。構ってもらえるなら、ゴーグルくんになってもいい。あ、でもそうしたらライダーくんと恋仲にはなれなくなっちゃうのか。いや、性別なんて関係なくない? ……というところまで考えて、ぶんぶんと頭を振った。わたし、何考えてんだろ。

 行動しないせいで、思考だけがどんどん先走っていってしまう。ライダーくんの性格とか表情とか、もっとちゃんと知りたいのに。わたしの頭の中のライダーくんは、たぶん本当と違う顔で笑ってる。違う考え方をして、もっと魅力的に目を細めるのだ。行動しない限り、わたしがそれを知ることはない。今日もまた、眺めて頭の中で考えるだけで一日が終わってしまった。
 いつまでたっても妄想癖が治らない。だんだん自分が嫌になってきた。このままじゃわたしの頭の中はバグったライダーくんでいっぱいになる一方で、わたし自身はちっとも前に進まない気がした。これほど不憫なことって、なくない? それもこれも、わたしの意気地がないせい。こんな自分、大っ嫌いだ。

 だからわたしは、なけなしの勇気を振り絞ることにした。死んでしまってもいい気持ちで、明日こそやるぞって心に決めて。かわいいわたしなら間違いないよって自分を必死に励まして。そうしてわたしはベッドに入り、そわそわしながら眠った。



 朝の四時に起きてしまって、それから眠れず次の日を迎えた。幸先は最悪。目がしょぼしょぼしていてかわいくない。でも、わたしは決めたの。今日こそ話しかけようっ! わたしが気合を入れてロビーに行ったとき、ライダーくんはちょうどひとりだった。やった、これって、かわいそうなわたしを見かねて神さまが味方してくれているんじゃない? わたしは突然心強い気分になってライダーくんに話しかけた。嬉しい気持ちいっぱいで「ら」まで言いかけたとき、後ろから「ライダー! なまえちゃんー! あーそーぼ!」という元気な声が聞こえた。
 ゴーグルくんだ。ああ、ツイテナイ……。
「遊ばねえよ。今日こそ+の数字上げに行くって決めたんだ」
 ライダーくん、ガチマッチに行く予定だったんだ。S+のライダーくん、かっこいいな……。でも、ガチマッチだと一緒に行けないや。やっぱり、今日は運がなかったのかも。わたしは途端落ち込んできてしまう。
「でも、ウォーミングアップがまだでしょ? せっかくなまえちゃんも居るんだし、ナワバリバトルしようよー!」
 えっゴーグルくんナイスすぎない? 思わぬ神降臨にわたしの落ち込んだ気持ちはみるみる舞い上がっていく。ゴーグルくんの誘いに、ライダーくんはわたしに少し目配せをして何かを言いかけた。でも、結局何も言わないで三人でナワバリバトルに行くことになった。なんだったんだろう? まあ、いっか。

 それから、わたしたちはただバトルした。ゴーグルくんは、相変わらずの自由さでバトルの秩序を破壊していくし、ライダーくんはそれにも負けずいつも通りにダイナモを振り回していてかっこよかった。わたしは……センプクばかりして、やっぱり眺めてしまっていた。
 何度目かのバトルで、初めてゴーグルくんから離れ、ライダーくんと一緒のチームになれた。リスポーン地点で隣合わせになったとき、すごくそわそわしてしまった。わたしがまた勇気を振り絞り「ら」まで言いかけたとき、ライダーくんがわたしに顔を向けてこう言った。突然だったので、びっくりした。
「おい、なまえ。さっき……」
 え、と訊き返すが、ちょうどバトルが始まってしまう。「後でまた話す」とライダーくんは先に行ってしまう。なんだったんだろう? まあ、いいか。
 わたしは仲間が塗り残した自陣を塗り塗り、ステージの中央に向かった。何やら、すごく騒がしい。インクの撃ち合いだけじゃなくて、なんだか野太い声が行き交っている。どうしたんだろ、喧嘩だったらやだな。わたしはうっかりセンプクするのも忘れて覗いてしまった。
「アニキー! 昨日振りっすね!」
「自分も今日はダイナモを持ってきました!」
「アニキに憧れてちょっと日焼けしてきました!」
「アニキ、こっち見てください!」
「うっせえ! お前らしつけえんだよ!」
 ……なんか、すごいものを見てしまった。後から知ったんだけど、このボーイたちはライダーくんに憧れているイカたちらしかった。でも、そのときのわたしは知る由もなくて、ライダーくんってモテるんだなあ……とまた悲しい気持ちになってきてしまった。こんなにいろんなひとに囲まれていたら、わたしのことなんて眼中に入らないよね。物陰に隠れて、しゅんとする。なんだか、涙まで出てきちゃいそう。
「なまえっ! ここに居たのか」
 ふえ、と情けない声を発した先には、ライダーくんが居た。少しだけ、焦った様子だった。
「オレはもうバトル放棄してロビーに戻る。なまえも戻るか?」
「え、なん、放棄?」
「余計なヤツら混ざってきてバトルどころじゃねえし、オレはそもそもこんな予定じゃなかったし……こんなところにお前一人置いてくわけにもいかないと思ったんだが」
「あ、え……っと、ほかの味方は?」
「どうせ人数差出たらプラベみたいになんだろ」
 ライダーくんは呆れたようにため息をついて、わたしをまっすぐ見つめた。一応答えを待ってくれてはいるけど、ライダーくんの心の中、なんとなくわかってしまう。「オレと一緒に来るだろ?」だ。わたしは、差し出された手をおずおずと握った。ライダーくんのスーパージャンプに引き摺られて、リスポーン地点に戻る。ライダーくんはリスポーン地点にある「体調不良」のボタンを押してわたしたちをロビーに戻した。

 それで、さっきのことだけど。ロビーに戻ってすぐ切り出された話題が、それだった。
「何か用事があったんだよな? ゴーグルが来て、うやむやになっちまっただけで」
 うそ、気付いてくれていたんだ。うれしくて、背中に羽が生えて飛んでいってしまいそうだ。でも、実はただ話しかけたかっただけで、それといった用事はなかった。せっかくのチャンスだし、何か考えよう。何か、何か……。
「あ、あの。ガチマッチに行くんだよね。応援に行っても、いいかな」
「それは……ご自由にどうぞ」
「それでっ、そのあとっ、ご飯とか行かない?」
「メシ? まあ、いいけど」
 やったー! そう心の中でガッツポーズを作る。口をぱくぱくさせて顔を綻ばせる表情をしたわたしを見て、ライダーくんは不思議な照れ笑いをした。あ、そのかお、今初めて見れた。