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ライダーとブキメンテデート ライダー / Splatoon(comic) | 名前変換 | 5min | 初出20180328

シューターで撃ち抜いて

 カンブリアームズの工房室に、金属のぶつかり合う音が響く。オイルの匂いが充満する工房の中で、店主は作業台に立ち、小さな身体で大きなブキをみるみるうちに分解していく。その様子を感心して、というよりかは、唖然としながら眺めるなまえのことを、ライダーは笑った。本当に今までブキのメンテを見たことなかったんだな、と。
「ブキってここまでバラバラになるもんなんだね」
「そりゃあ、そうだろ。全部、小さなパーツでしかねえんだ」
 ライダーは慣れた様子で言い、分解されつつあるダイナモローラーテスラに目を向けた。店主であるカブトガニのブキチが作業台の上に次々と置いてゆく艶のある赤金色の部品を、愛おしそうに、優しげな目で見つめている。しかしブキチにはその愛情が伝わらないのか、「そんなに睨まなくても、こないだみたいに不用意な改善はしないでしよ」と一言お断りを入れた。

 ハイカラスクエアというところに、カンブリアームズの新店が出るらしい。それを機にこのブキチもそちらへ移るらしく、ハイカラスクエア店には週一、メンテナンスのためだけに出張してくることになった。そうなると必然的に、今までのように気軽にメンテナンスしてもらえなくなる。ライダーはその話を聞いて、なまえとのデートの約束を返上してカンブリアームズに行く決意をした。しかしなまえも頑固なもので、物分かり悪くついてきたのだった。
「わたし、メンテナンスなんてしてもらったことないなあ」
「まあスプラシューターは使い捨てだからな、基本」
「メンテが必要なブキを使うって、なんかいいね。強いひとって感じ。えへへ、やっぱライダーってかっこいいねえー」
「やめろ、外だぞ」
 ライダーにくっつこうとするなまえを見て、「はあ、お気楽なイカたちでし……」とブキチは深いため息をついた。呆れながらも、ブキチは素早くダイナモローラーを分解していく。取手とローラー部分がやっと外れると、今しがたダイナモよりもライダーに夢中になっていたなまえも「おおっ」と感嘆の声をあげる。
「ああ、曲がってるでしね」
「あ? どこがだよ」
「ここ、よく見るでし! キミはいつもここを曲げてから持ってくるからいい加減覚えてしまったでし……おそらく、振り回すときの癖かなんかで、負荷を掛けてるんでしよ」
 小さな指で懸命に差された箇所をライダーも顔を近づけてよく確認するが、結局「わっかんねえ」の一言で一蹴した。ブキチも、まあキミには判んないでしね、という顔をしている。しかし唯一、作業台に頬杖をつきながらローラーを眺めていたなまえだけは、「あ、わかるわかるー」と顔を綻ばせて肯いた。
「ライダーはね、こう振るの」
 なまえは立ち上がってローラーを持つ真似をした。高く上げた腕は肘で曲げて、後ろ手に見えないローラーを持つ。そうして、身体は右上から左下に向かって大きく捻り、仮想のローラーは右肩側の空を大きく経由して縦振りの形をとった。
「ね、こんな感じでしょ?」
 得意げになまえは言うが、自分のバトルの時の姿を見たことがないライダーは、まったく腑に落ちなかった。それどころか、彼女の動きがあまりにもイカしていないので、「オイ、オレの動きはそんなにダセェのか……?」と不安になってしまう。一方、ブキチは納得したような雰囲気で頷いた。
「成る程、遠心力が掛かってるのかもしれないでしね。そんなことしなくてもダイナモは振れるでしが、それをするとさらに強力な一振りになるでし……振られたほうは、ひとたまりもないでしねー。まあキミたちはローラーとぶつかる前にインクの圧で溶けるから、大事には至ってないでしが」
「えっそうなんだー。ライダーこっわ! でも好き!」
「オイ、オレってそんなキモい動きしてんのか……?」
「わたしならライダーのその一振りも受け止めてあげるー」
「イチャつくなら外に行っててくれないでし?」
 本当は最後までメンテナンスに立ち会いたかったライダーだが、ブキチの呆れ顔となまえのにやけ顔と自身の心の沈み具合に負けて、メンテナンスが終わる十五時過ぎまでカンブリアームズから離れることにした。ねえねえどこ行こっか、とルンルン気分のなまえを右腕に抱え、暫く上の空になるが、ガールフレンドが楽しそうにしているので段々とどうでもよくなってきた。
「お前のスプラシューター貸せよ」
「えっどうするの?」
「ガチマッチに出る。スプラシューターの立ち回りを見せてやる」
「ライダー、シューター使えるの?」
「うっせえな」
 まだ、素直にはなれないようだったが。しかしライダーのそんな気持ちも全部包み込むように、「いーよ」と、なまえはおおらかに笑うのだった。