ESCAPE | ナノ

ESCAPE

01








世界は理不尽で、不条理だ。

「ねえ見てあの子…」

「…やだ例の子じゃない」

こそこそと、わたしを見て噂話に勤しむ主婦達の視線から身を隠すように、路地裏に滑り込む。そのまま壁伝いに走り抜け、屋根を飛んで森に向かう。すると一定の距離を保ったまま後を付けていた気配が急激に近づいてきた。
背筋を舐めるような殺気が迫る。

「っ、は…」

冷たい殺気。投げられたクナイが横腹を掠め、服に血が滲む。よろけて座り込んだわたしの正面に複数の忍が現れた。みんな暗部のお面を付けている。刀を振り上げた忍が、お前のせいで、と譫言のように呟く。
強い憎しみに、ざわざわとお腹の中の熱いものがせり上がってきた。

「――返せ…」

熱い、気持ち悪い。
振り下ろされた刀から逃げるように身体を逸らす。刀を持ってない別の忍がクナイを投げて、わたしの動きを止めた。

「返せぇえええ!!」

今度こそわたしの眼前に振り下ろされる。逃げようともがいても、動けない。このままだと間違いなく死ぬ。でもいやだ、死にたくない。このまま死ぬのはいやだ。そう思ったらさっきよりもざわざわと熱いものが頭まできて、全部が真っ赤になった。





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