ESCAPE | ナノ

ESCAPE

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初めて感じた生身の身体を引き裂く感覚に、腕が震える。命を斬るという感触。常にされる側だったからこの痛みはわたしも分かる。でも初めて味わったのか、ミズキ先生は目の前で手裏剣に挟まれ千切れる寸前に煙となって消えたわたしに驚いて、続いて肩から吹き出た赤い液体に呆然とした表情を浮かべた。

「ふっ…!!」

刀を振り下ろした勢いのまま、ミズキ先生を蹴り飛ばす。重力に従い落ちていく先生に、確実にとどめを刺そうとクナイを投げた。イルカ先生が何か叫ぶのを聞き流して、もう一本投げる。投擲は苦手なせいか、心臓目掛けて投げたそれは腹と腕に命中した。

「ぐあっ…!!!」

イルカ先生は出血が多いせいで動こうとしても動けない。喋るのがやっとのようで、殺すなとかお前が手に掛ける必要はないとか言っている。そんな殺すなんてしないのに。
クナイで地面に張り付けられ、苦しそうに喘ぐミズキ先生の顔を覗き見る。悔しそうではあるけれど、どこか恐怖に歪んだ表情だ。

「クソォ…この俺が、っ落ちこぼれなんか、に…くっ、」

そんなミズキ先生の耳元で、低く囁く。

「…お前こそ馬鹿な人間だ…」

「ンだ、と…げほっ」

「わざわざ我が名を謳い、腹の底で眠る我を目ざめさせた。…くく、寝起きは腹が減る。お前でも喰ろうてやろうか」

「ひっ…や、め…うわっうあああああああ!!!」

獣のような赤い瞳。狂気の滲む声。笑みさえ浮かべたわたしに、恐怖が限界を超えたのかミズキ先生は目を見開いたまま気絶してしまった。案外気の小さい男だ。
心拍数が上がったせいか、肩から溢れる血がわたしの足下にまで広がる。外側を流れる赤じゃない、もっと奥を流れる鮮やかな赤。ほっといたら死んでしまうね。腹の底に向かってそう言えば、くつりと笑う気配がした。





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