ESCAPE | ナノ

ESCAPE

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「…行け!」

その声に反射的に地を蹴り走り出す。少し前まであった疲労感はもう無い。
森を走り抜け、ミズキ先生が感知出来ないであろうところまで走った。
さて、このままわたしは逃げてもいいのだろうか。イルカ先生を見捨てたまま。わたしだけ、のうのうと。
ミズキ先生くらいなら、わたしだけでも相手に出来るのに。果たして、わたしは言われたままに逃げて、いいのだろうか。
湿気た風が頬を撫でる。腹の底から響くような声も聞こえない。

「…今なら、やれる」

背中に隠した刀を後ろ手に掴む。抜いた刀身は、満月の光を浴びて拝借した当時から変わらず鈍く光っていた。
一度だけ深く息を吸い、神経を尖らせる。二人が今何処にいるかは既に分かった。踏み出した足に力を入れて、気配の方へ走り出す。
少し走ってから、地面が不自然に赤くなっているところがあるのに気がついた。触って確かめると、やはり血だ。多分イルカ先生のだろう。

「つくづく馬鹿な野郎だな。親の仇を庇ったところで、あの餓鬼も俺と同じなのによぉ」

ミズキ先生の嘲るような声に、木に隠れて様子を伺う。イルカ先生は意識を保つのがやっとのようで、早くしないと少しまずいかもしれない。

「あの巻物の術を使えば何だって出来る。それこそ里への復讐だってな。…それをあの化け狐が利用しないはずないだろう?」

あいつはお前が思ってるような奴じゃない。そうにやりと笑ったミズキ先生に、どう返すのかとイルカ先生を見る。否定して欲しい。でも、不思議なことに心の何処かでは肯定してほしいとも思っていた。そうすれば、身軽になれるのにと。

「…ああ、そうだな」

一瞬、針で突いたように胸が痛んだ気がした。

「それはあいつが化け狐だったらの話だ。…だがナギサは違う」

微笑を浮かべたイルカ先生に、また胸がつきりと痛む。でも、さっきとは違う痛みだ。

「ナギサは化け狐なんかじゃない。…悪戯好きで、ひねくれてて、あんまり素直じゃなくて」

わたしがしてきた数々の小さな悪戯を思い出しているのか微笑が微苦笑に変わった。そして、ふっと小さな笑みを零す。

「だけど本当は臆病で…人の痛み、苦しみが分かる。だから、ナギサは化け狐なんかじゃない。…うずまきナギサは、木ノ葉の里の忍で…オレの可愛い、教え子だ…!!」

その言葉に弾かれたように顔を上げ、頬を冷やす雫を乱暴に拭う。
鼻で嗤うミズキ先生がクナイを投げるよりも早く、イルカ先生の前に踊り出た。






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