ESCAPE | ナノ

ESCAPE

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強い力で肩を掴まれ、地面に押さえつけられた。

「がっ…!!」

背中に衝撃が走る。刃物が肉に刺さる不愉快な鈍い音が聞こえ、目蓋を開ければ眩い満月に、イルカ先生がいた。
驚いて、声が出ない。ミズキ先生が何か言っているけれど、それも耳に入って来ない。

「なん、で…」

押し倒されたまま、呆然と呟く。どうして、何故、そればかりが頭を巡る。
わたしは、平気だったのに。怪我をしても直ぐに治るのに。

「なあ、ナギサ…」

満月が雲に隠れ、ぽとりと、雫が落ちた。

「両親が死んでから…オレを褒めてくれたり、認めてくれる人が誰もいなくなってよォ…それが、寂しくて苦しくて…」

ぽとりと、また落ちる。イルカ先生の顔は、分からない。でも一滴二滴、三滴と不規則に続くそれは、暗いから、雨だと思った。

「寂しいよなあ…苦しよなあ…お前だって、おんなじだよなあ…」

ぽとりぽとり。何滴目だろうか。
雲が流れ、また満月が顔を出す。

「なのに、お前は誰にも頼れなくて…ずっと独りぼっちだったんだよなあ…」

口から零れた血が、わたしの服に落ちる。先生は、泣いていた。

「ごめんなあ、ナギサ…気づいてやれなくて…ぐっ、」

ぽとりぽとりと、雫が落ちる。

「ナギサ…」

どうしたらよいか、動けないでいるわたしにイルカ先生が優しい声色でわたしを呼んだ。

「…逃げるんだ、ナギサ」

その微笑が誰かと重なる。
記憶の遥か彼方、わたしが忘れてしまった優しい誰かに、似ているような気がした。






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