ESCAPE | ナノ

ESCAPE

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「お前の正体はなあ、十二年前里を襲った九尾の化け狐なんだよ!!!!」

それに被せるようにして、イルカ先生が悲痛な叫び声を上げる。そしてクナイを手に飛びかかるのを、わたしはただ視界の隅に入れていた。
わたしはミズキ先生から目を逸らさない。何を今更、とも思った。
たとえ掟を作りそれを里全体に強制していたとしても、当の本人がそれを知っていたのだとしたら、本人の耳に入れないようにするという目的での意味は無い。仮に里人に語らせない事により出来るだけ誰が人柱力になったのかを忘却させるつもりだとしても、意味は無い。むしろ憎しみ、悲しみといった負の感情が蓄積され続けそれは全てわたしへと向けられる。

「っ…」

ただ、九尾という名を耳にすることが少なくなったという点では、よかったと思う。名は呪いだ。本名ではないだろうけれど、固有名詞であるそれは名として十分な価値のある。それを聞くことがなくなったおかげであれは腹の底で大人しく眠っていることが多くなった。
ただ、今久しぶりに名を呼ばれた事により腹の底で微睡んでいたあれが目を覚ましてしまったけれど。

「イルカ先生!!」

ミズキ先生が背負っていた風魔手裏剣でイルカ先生に斬りかかる。それをクナイで受け止めたイルカ先生が、ミズキ先生を力一杯投げ飛ばした。
目の前で繰り広げられた戦闘に、腹の底がまた疼く。

「ナギサ、今のうちに逃げろ!!」

「くそっ、させるかァ!!」

イルカ先生とミズキ先生の鬼気迫る表情で見られ、咄嗟に身体が反応出来ず呆然と立ち尽くしてしまった。
それを見てミズキ先生がまた歪んだ笑みを浮かべ、流れるような動作でわたしに風魔手裏剣を投げる。
背中に隠した刀が急に重く感じて。迫る刃が怖いと、そう思って。

「ナギサ…!!」

先生の声に、ぐっと目を瞑った。






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