ESCAPE | ナノ

ESCAPE

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十年前のあの日に失ったものは数え切れない。あの子供もまた、九尾に人生を狂わされた一人なのだと、頭では理解している。
理解は、しているのに。
九尾の人柱力に選ばれたあの子供は、戦争孤児だと、出自が分からない子供だと三代目は言っていた。それでも四代目の面影を残し奥方様の姓を名乗るあの子供に疑問を抱いた者は少なからずいる。
それでも皆、やっぱり九尾が憎くて、器にされたあの子供の向こうに九尾を感じて憎まずにはいられない。
あの子供と九尾は違う。九尾が憎い。あの子供も犠牲者なのだ。九尾はあの子の中にいる。何年経っても、心だけが追いつかない。みんな、心のどこかでは同情してるのに。なのにそういう感情全てを隅に追いやって、オレ達はあの子を憎み、怨み、傷付けてきたんだ。それこそ正に、人柱のような役割を押し付けて。
オレも、あの子と街で会わなければそんな心の隅にある思いに気がつかなかったんだと思うと、今でもぞっとする。

「ナギサ、一楽行かないか?」

先生その言い方ナンパっぽいよ、と微苦笑したナギサを軽く小突く。奢ると言えば二つ返事で了承した目の前の少女に将来が心配になるも、それよりも頬に残った擦り傷が気になった。
また、直ぐに治るからと放置したのだろうか。女の子が顔に傷付けるんじゃないと言おうとして、口を噤む。

「なあナギサ、なんで授業に出ないんだ?」

なんてことのない、無難な質問。例え火影様から性別を誤魔化す為男女別授業は出ないと言われていても、折角の学ぶ機会を損なうのは勿体無い。

「先生、三代目に聞いてない?」

「いや、お前が男女別授業の免除が与えられてるのは聞いてるけどな、忍者に要らない知識なんてないし、そもそも毒草と薬草の見分け方を習う機会なんてなかなかないぞ?」

オレだって見分け方なんか知らない。そう笑うと、釣られたようにナギサも笑った。そして笑顔のまま先生、と続けて立ち止まったナギサに、オレも立ち止まる。

「毒の有無を見分ける程度なら、習わずとも出来るよ」

あまりに自然に笑うから、思わず呆けてしまった。

「イルカ先生、折角一楽に誘ってくれて申し訳ないけど、夕飯食べれなくなっちゃうから今日はこれで帰るね」

そう言って、笑顔で手を振るナギサに、漸くオレははっとしたのだった。




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