黄昏の風 | ナノ

第三話.幽霊電車(後編)

「何も起こらないっすね」

「もう少し待ってみようよ」


時計の示す針は既に

九時を指していた


『島君…落ち着いて座ってた
方がいいよ』


数分経った今、現状は何も

変わらないただ同車両に

乗っているリクオと亜茄音が

一定の間隔を保って座っていて

島は車両の廊下を行ったり

来たりと落ち着かない様子で

歩き回っていた。


「はいっす」


何故か緊張しているように

言われるがままに亜茄音の

正面に島が腰を降ろした途端

車両内、いや電車全てに

おいての空気が一変した。


『(動きだした)』

「もう、そろそろ帰っても
いいんじゃないっすかね?
何も起こらないようだし」

「もっもうちょっとだけ待って
みようよ!せっかくなんだし」


この反応からして一変した

雰囲気に気づいたのはリクオ

であって島はわからない

ようであった。


『島君、最近疲れてるでしょ』

「へ?」

『眠たそうにしてるよ?』

「きっ如月さん//」


席から立ち上がり島の隣へ

移動して島の耳元で囁く


『【眠って】ていいよ…』

「あれ…何だか、眠く…」


言霊を使い島を眠らせると

驚いた表情を隠せずにこちらを

見つめているリクオ、そんな中

妖怪は動き始めた


『よし』

「島君?!如月さん、君は…」

『私に気を取られて、よそ見
してたら殺されちゃうわよ
奴良組の若頭さん』


【パリンッ】


「如月さん?!っわ」

『だから言ったのに』


妖怪の姿になった亜茄音を

見ればリクオは更に驚いたようにし

同時に触手のような物が車両の

窓硝子を突き破った。


「なるほど」

『ん?』

「それなら、つじつまが合うって
もんだ如月さんが音嵜の現大将
なら名前が同じでも不思議じゃないからな」

『そう私は半妖なの…
如月は父方の性騙したつもりは
ないわ…それにしても夜の貴方
に私服って似合わないわね』

「アンタもなっ」

『知ってる』


会話を続けながら近づく触手を

手持ちの扇子で粉砕していく

うちにリクオに背中を預ける形に

なっていた。


「やるじゃねぇか」

『貴方もね』






「若っ大丈夫ですか?!」


敵妖怪であろう触手を

ある程度粉砕し終えた時

割れた窓から奴良組側の

雪女が血相を変えてやってきた


「おぅ氷麗じゃねぇか」

「リクオ様っ夜のお姿…
ではなく大丈夫でしたか?!
お怪我はありませんか」

「俺は別に」

「ご無事でなによりです
あっ、あの…貴女は?」

『私は「こいつは俺の女だ」』

『ん?』

「…えっな若ぁ?!//」

『誰が何時貴方の女になったのかしらねぇ?』

「…冗談だよ」

「アハハ、冗談…そう冗談…はぁ」

「今はな」


この雪女は側近としてではなく

多分リクオを好いているのだろう

反応で何となくわかる


『何か今言った?』

「いや、何も」

『そう』

「そういや氷麗」

「はい」

「カナちゃんは、どうした?」

「あっそれがですね突然白髪の
妖がその場を自分に任せろと
言ってくれたので任せて来たんですけど…」

「なっ何処の組かもわからない
奴に預けて大丈夫だったのか」

「助けて貰ったので、安心して
しまって…そうですよね」


リクオの言葉になっとくした彼女

は深く考えるようなしぐさを

しながらも"どうしよう"と

そんな不安げな表情をしていた。



『それなら私の組の者だから
安心していいと思う』


白髪の妖と聞いた時点で

その人物が自然と浮かび

上がってきた

だとしたら、この場に霧葉は

来ているのだろう


「じゃあ…残すは」

「清継君と如月さんの
お姉さんと巻さん鳥居さん
だけですね、…あれ若?
如月さんは何処です」

「何処って、そこに」

「へ?」

『ん、あぁ私よ…私が雪女さん
貴女の探している如月亜茄音
今は妖怪の姿だけどね』

「えぇ!!!どうゆう事ですか?!
私にはさっぱり状況が…
それに私が雪女だってこと」

「落ち着け氷麗、亜茄音は
半妖なんだ…っても俺もさっき
知ったんだけどよ」

「は、はぁ」

『雪女だって気付いたのは
初めて会った時からだから気にしないで』

「えぇ?!…私人間に化けるの下手なんでしょうか」

『私の所にも同じ雪女が…
ほら如月雪那、彼女がいるから何となくわかるだけよ』

【キィ-…ガタンッ】

「私には…わっ」

『とっ大丈夫?』

「はい、大丈夫です//」

『鼻…赤くなってる』


突然今まで動いていた電車が

急停車したのか正面に立って

いた氷麗はこちらの方へ

倒れ込んできたのを亜茄音は

受け止めた


「止まったようだな」

「そのようですね」

『それじゃあ私はお先に』

「おいっ」





車両を降りて真っ先に向かった

場所は巻と鳥居が乗っていた車両


『誰も居ない…』


予想はしていたが案の定車両に

誰ひとり乗っていなかった

そして通った先にも雪那と清継

の姿も伺えなかった。

巻と鳥居は雪那が助けたに行き、

何かが行ったことを

雪那に預けていた狐の面が

教えてくれているかのように落ちていた。


『何をしくじったのかしらね』


いつものように狐の面を付け

車両の外に出る


『さて助けに行きますか』

「貴女は以前ウチに来ていた…
って如月さんだったんですか?!」

「気づいてなかったのかよ」

『それに今は音嵜よ、前はウチの
子がお世話になったわね…私は
先に行くんだけど貴方達はどう
するつもり?ついて来る?』

「この先に何かあるのか?」

『ちょっとね、でも此処は
音嵜組の土地…奴良組の貴方達
には関係のないことよ』


そう事の発端は音嵜の土地に

住み着いた妖怪の仕業

奴良組には関係ない


「馬鹿言ってんじゃねぇよ!」

『なっ馬鹿…?!』

「そっそうですよ奴良組だとか
音嵜でしたっけ関係ありません」

「仲間が困ってるなら助けりゃ
いいだけの話だろ?」

『仲間になった覚えなんか「ほら先に行くぜ」』

「はい!」

『なんか立場が逆転してる
ような気がするんだけど』

「俺はさアンタを守りたい
それじゃあ駄目か?」

『…かってになさい』


目指す先は先の見えない線路

その道をただ歩いていく

だけだった


「行き止まり…ですかね」


暫く歩き着いた場所には

先はなく人など容易に入れる

大きな水溜まりが展開していた


「どうする?引き返すか?」

『まさか』

「えっもしかして中に入る
つもりですか」

『微かにだけど中から雪那の
妖気を感じる…私が行くから
貴方達は万が一、何かあった時
に動いてくれたらいい』


深く深呼吸をして面を取り外し

片手に持てば水溜まりの中に

飛び込んだ…この場所に

たどり着く間にリクオと氷麗には

借りが出来てしまった。

そう思いつつ微かに見える

光の先へ泳いで行った。





『はぁ…はぁっ、ごほっ
案外長かったわねぇ…』


肌に密着する服と髪の毛

通常であれば髪は一つに

結い上げているけど

今は人間時の服装であり

髪止めなど持ち合わせていない

ひとまず風を自分に放ち

自分に纏わり付く水分を

最低限弾き飛ばした


『まだ少し濡れてるけど…』

【ザバッ】

「っ置いてくなよな…ケホッ」

『奴良リクオ?!どおして…』

「言ったろ?俺はアンタを守りたい
だから追いかけてきた」

『…怪我しても私のせいに
しないでよね』

「そんなこと、しねぇよ
これは俺の意志で動いてんだ」

『そっ…』


以前からなんとなく思っていた

母様が毛嫌いするほど奴良組は

悪い妖怪ばかりでないと思った

得に、ぬらりひょんは本当に

やみくもに妖怪を切るような

妖怪なのだろうか…

少しくらい信じてみても

いいのではないだろうかと…。

そんなことを思っている最中に

薄暗い霧が辺りを充満している

ことに気がついた。


『奴良組の若頭さん…
先に進むけどいいかしら?』

「そのさ」

『何?』

「その奴良組だの若頭ってん
じゃなくリクオって呼んでくれ…
奴良リクオも無しだぜ?」

『それ…今言うべきこと?』

「あぁ俺にとっては必要な
ことなんだよ、それに俺だって
アンタのことは亜茄音って呼んでるだろ?」

『わかったから…まったく…
面倒な話しないでよね…』


これから妖怪退治に行こうと

言うのに呼び名ごときでそれを

妨げられるとは…そう思うと思わず溜息を尽きたくなる

衝動になり腰に手を置きつい小さく溜息を零した。


『この妖気…』

「知ってるのか?」


先程まで感じていた妖気とか

違う妖気、いつも行動を共に

しているからなんとなくわかる

これは雪那の妖気だ

「寒いな…」

『そういえば貴方びしょ濡れ
だったわね…』


ただ濡れていることが原因

ではないようだ歩みを

進めているうちに辺りは

凍り付けになっている

それが寒さの原因の一つだろう


「もう、なんなんですか!」

『…随分と無様な姿ね雪那』

「亜茄音様っ…て何をやってるんですか?!」

『今の貴女にだけは言われたく
ない言葉よね…それより自分の力で逃げれないの?』

「それが出来ないから、こんなに
辺り一面凍り付けなんですよぉ」

『自覚はあるんだ』

「用は助ければいいんだろ?」

『あら』

「なぁっ?!」


雪那の動きを塞いでいたのは

元は先程の触手と同じ物だろう

しかし今は凍り付けになって

いて原形を留めていなかった

それをリクオは話の最中あっという

間に断ち切ったのだ


「く…屈辱です」

『素直に御礼言えばいいのに』

「嫌です!」

「俺って嫌われてんだな」

『まぁそりゃ』

「亜茄音様になれなれしく
話しかけないで下さい!」

『雪那、少し落ち着きなさい』

「はい」

「ケホッ」


一瞬、聞こえた咳込むような声

二人は気付いていないようだが

確かに聞こえた。

そしてその声の幼さから

二人ではないことも教えてくれた


『いま…』

「ん?」

『微かに妖気を感じる』

「え、あっ本当だ」


当たり一面を見渡すと

子供くらいの背丈の妖怪が

柱に隠れるに隠れきれずにいた


『此処で何をしてるの?』

「わっ、見つかったっ」

「逃げ「子供だからって逃がしませんよ」」


追い詰められた人の姿をした妖怪

観念したのかその場に座り込んだ


「貴方達、此処が誰の組の土地だか
わかってるんですか!?」

「叔母さん声おっきい」

「おっ、誰が叔母さんですかっ!
私は…いいから質問に答えなさーい!!」

「音嵜組だろ?最近弱体化してる
って噂されてる…」

「だから、俺達は此処に来たんだ」

『弱体化ねぇ…』

「そうなのか?」

「そんなはず、ありません」

『噂なんてよくあることでしょ』

「なんで、そんなに呑気でいられるん
ですかっ何の為に私はっ…」

『私は、何?』

「何でもありません…」


雪那は話の途中に突然黙り込んだと思えば

何も話さないと言うように視線を反らし

大人しくなった


『ところで貴方達は何処の組?』

「無所属…」

「無所属じゃあ、駄目なのかよ」

『駄目なんかじゃないわ、そうねぇ…
私の組に入る気はない?』

「「え?」」

「亜茄音!?」

「へぇ…」

『貴方達が言うように弱体化させた
つもりはないけど、私の配慮不足の
せいで変な噂を流させてしまった
みたいだし…貴方達がよければ
この土地を貴方達に任せるわ』

「いいのか?」

「本当に?」

『えぇ』




見た目は子供だけど考えはしっかりしている

だから、この土地を任せることにした


「じゃあ…」

「これ返すよ…」

『ん?』

「えっ」

「これはっ?!」


先の暗闇から出てきた触手に

連れられてきたのは見慣れた

巻と鳥居の姿だった…


『人質を取っていたのね』

「なぁに呑気にまた!!」

「まぁまぁフケるぜ」

「「うんうん」」

「このまま貴方達を氷付けにして
抹殺して差し上げましょうか?
そしたら、ぬらりひょんの血筋も…」

『はいはい、…それじゃあ私の組に
入るんだから「音嵜組のルールを覚えて
もらいますからね!」私の台詞…』


それから雪那は口を開けば幾つかの

条件を口にした。


『とりあえず、私が三代目である限り
人に危害を加えないこと、以上』

「亜茄音様?!そんなアバウトにっ
『雪那そんなに五月蝿いと老けるわよ?
じゃっ私帰るから』えぇ?!!!」


微かに流れる風を頼りに

巻と鳥居をつれて元来た場所へ帰る


『雪那後は任せたわ、リクオは
帰りたいならついてきなさい』

「わかりました…」

「ぉっおう」





「また妖怪に出会えなかったぁ!!」

「あれっ…此処は?」

「私達」

「何をやってたんだっけ?」

「おっ音嵜さん?」

『目が覚めたみたいでよかった』

「皆、地震の衝撃で気を失っていた
みたいだから僕達で運んだんだ」

「「地震?」」

「あっでも確かに頭が若干痛いような…」

「でも自分は確か音嵜さんと」

「急に揺れたから混乱してるのよきっと」

「おっ及川さんがそう言うなら…//」

「そう言えば、お姉さんは?」

『姉なら疲れたから先に帰るって…』

「ぼっ僕達もそろそろ帰ろうよ」

「何も起こらなかったわけだしオホホ…」


こうしてリクオの一言で解散となり

気を失っていたメンバーは

疑問を残しながらも駅から出て

妖怪騒動は静かに幕を下ろした。




『2012/04/20』。

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