2〜崩壊呪文は慎重に〜 よし、一回練習しよっと。アイツ、オレが伝次郎って分からないだろう。だからこそ、あの呪文が効くはずだ。崩壊呪文としてでなく、アイツに正体を分からせるきっかけ呪文として。 すっと息を飲み込んでから、オレはパ○ーになった。シー○はいないけど。 「バ○ス!」 当然、オレはただのミーハー根性でそう叫んだだけだった。船首に立てば、カップルは女性が十字の形で手を伸ばし、後ろから男性が腰を掴むポーズをしたくなるのと一緒だ。また、石造の口があれば突っ込んで、手が抜けないフリをしたくなるのと一緒だ。白トレーナーを着れば、携帯電話をつまんだり、体育座りでイスに座ったり、前かがみになって歩き、ぼそぼそとした口調で敬語を使いたくなるのと一緒だ。 つまり、天に浮く城にいれば、ペンダントを持ちながら崩壊呪文を言いたくなるのは日本人の性だろう。 そして、その後は自分のアホさを笑おうと思っていた。 しかし、まるで本当にその呪文が効いたのかとアホな考えを持つほど絶妙なタイミングで、地面がぐらぐらと激しく揺れる。 「えっ?えっ?」 立てなくて、オレは伏せる。そして頭を抱えた。無意識の防御体勢だ。 なっ、何が起こっているんだぁ〜〜。 耳も塞いでいるし目も瞑っているので、聞こえないし見えない。 しかし、次の瞬間、部屋にあり得ないほどの突風が吹き荒れる。そしてすぐに地面の揺れは停止した。 何が何だか分からないままオレは薄目を開く。 目に飛び込んできたのは闇のような黒だった。 抵抗する暇も与えられずに、その黒がオレを頭から包み込む。黒がオレの肌に触れて初めて、それが大きな布であると悟った。 黒い布がオレの身体を包み込んだと同時に、肌に触れるそれがいきなりぬくもりと化した。 「えっ」 ビックリしてオレは驚きの声を上げる。 そして、次の瞬間。オレ、ディーはその正体を悟った。 「崩壊呪文を1人で唱えるなよ、伝」 その声はディーとして過ごした17年と言う年月を一瞬で、空白にしてしまった。そして思考はディーではなく伝次郎としてのモノになる。 伝次郎としてのオレが聞かない日は無いだろうと思えるほど聞きなれた声、そして呼び名。オレの事を伝次郎とそのまま呼ぶのが勇司しかいないように、オレの事を伝と呼ぶのは…。 「祥治?」 自他とも認める幼馴染みで親友の、祥治だけだった。胸のあたりに腕ごと回された太い腕がオレを息がし難くなるほど抱きしめている。しかしその腕は小刻みに震えているためにその震えがオレの身体にまで伝わってきていた。 「あの呪文祭り、結局14万3198件で世界最高記録だったんだぞ」 祥治はオレの問いかけにあの日の事で肯定を返して来た。 「お前があんなことにならなければ、14万3200件でキリが良かったのに…。お前のせいだぞ?」 責めるような口調のくせに、その口調は聞いたことがないほど甘さを含んだ音色をしている。 その優しさが何よりも彼の気持ちを現しているようで、考えるより先にオレは謝罪を口にしていた。 「ごめん。本当にごめん」 「許さない。お前のせいで、こんな所まで来る羽目になった。したくもないこんなコスプレすることになったんだから」 そう言って、オレの肩を掴んでぐるっと身体を回転させられた。 「えっ!!」 予想外の彼の姿に、オレは一瞬息を飲み込む。 前回のバルス祭りは14万3199件を記憶したとネットで見ました。でもここでは、祥治と伝次郎の分を引いてここでは143198件にしました。 UNION・■BL♂GARDEN■ |