4.頭の中まで丸見えの魔術はないですか〜? 可愛らしい少年だな。こんな弟が欲しかったもんだ。 優秀な生徒を前に、教師や兄貴役など滅多にできなかったオレは張りきって日本の歌を1つ教えてあげる。 少年はさすがにプロだけあって、すぐに歌を覚えた。オレなどとは段違いなほど伸びのある聞き惚れる様な歌声が流れてくる。 「ありがとうございます。で、でも、ぼく、諦めたわけではないです!う、運命を感じるのです!会ったばかりのぼくに優しく歌まで教えてくれるなんて…。ど、どうしよう。名前もまだ教えてもらってないのに…ぼく。もしかしたら…貴方が…」 もじもじしながら意味不明な事をブツブツと呟いてくる少年の姿を見て、オレは自分の行動の選択を間違ったことに気が付いた。 「あ、す、すみません。そう言えば、名前もまだでしたね。ぼ、ぼくはドウテといいます。で、できれば貴方の名前を…」 ドウテと言われてオレは彼の正体が分かり自分の迂闊さを呪った。道理で少年の姿を見て既知感を覚えたものだ。 ドウテ…例の愉快な勇者軍団の一人、踊り子だ。 つまり、変態ストーカーとナルシスト腐れ聖職者の仲間だ。 オレの頭の警報がマックスで鳴り響く。 少年自体はそれほど害はなさそうだ。可愛らしいし、弟にしたいぐらいだ。 しかし、今までの経験上、親しくなるわけにはいかないとアホでもオレでも分かる。 「少年!いや、ドウテ。お願いだ!頼む!オレを見逃してくれ!」 オレはガバッと頭を地面に付けて土下座する。 プライド?何それ?食えるの? 勇者集団に近寄らない為ならオレは何でもできる。悪魔にでも魔王にでも魂を売れる。 そんな心境だったが、当然のごとくドウテはオレの行動に意表を突かれて唯でさえ大きな瞳をこぼれ落ちそうなぐらい見開いている。 「えっ?どう言うことですか?」 「勇者様たちとは関わり合いたくないんだ。い、いや。お前が悪い訳ではない。これには深い訳があるんだ。オレは唯のモブだから名前も聞かずにその記憶から消し去ってくれ!歌はお前の作だとしたらいいから!おっ、おねがいだぁ〜」 関わりたくないと言った瞬間に真っ青に顔色を変えたドウテに罪悪感を覚え良い訳を繰り返しながらも、オレは必死に懇願する。 「そっ、そんなぁ〜。無理です。…いやです」 「オレの…オレのケツが掛かっているんだ!もうスプレー缶も見たくねえし、腐った聖剣とやらも見たくねえの!頼む!」 拒否されてオレは情けない声で本音をぶちまけた。あの変態コンビとは同じ空気すら吸いたくない。 「えっ。どう言う事ですか?まったくわかりません。せめてきちんと説明して下さいよ!」 泣きそうな顔でそう言われて、オレの胸は罪悪感でズキズキ疼いてくる。 結局、今までの苦難をオレは少年に教えることとなった。さすがに少年相手なので、オブラートに包んでである。 「信じられないだろうが聞いてくれ」 「はい」 「オレは、へんた…勇者、御一行…様の、ろしゅつ…魔法使いマッド…様?になぜか研究対象とされていて、そのせいで、聖職者?ナル様にまで、魔物憑きの疑いを掛けられているんだ」 本音が出るのを堪えながらそう説明すると、案の定、信じられないとばかりに目をまん丸にした。 「えっ!あのお二人まで、貴方を狙っているのですか?」 「いや…え〜と」 オレの説明をかなり湾曲させての返しにうっと詰まってしまう。彼らのスプレー缶と聖剣の照準はたしかにオレのケツだからだ。きちんとそう言う意味合いを避けて説明したはずなのに、ズバリと正解を出されてしまった。オレが曲げた分、少年も反対方向に曲げて解釈して、真っ直ぐになったような感じだ。 オレがすぐに否定しなかったことで真っ直ぐな少年は、自分の推測を確信のモノとした。 「二人からは必ず、お守りします。だから、僕との出会いをなかった事にするなど悲しいことは言わないでください。お願いします!」 ここまで真摯に年下の少年に言われて誰が断れるだろうか。 結局、オレは名前を教えることにした。 どうせ、今だけだし、あいつらとはいない所で少年…ドウテと接触すればいいか。村人の役目終わったら、村から避難するしね。 そう軽く思って折れたのだ。 この時、オレは少年の本性をまったく分かってなかった。汚れなど全く知りませんと言った天使のような表情をした踊り子の頭の中の映像が見えていたら、決して折れたりはしなかっただろう。 オレの話を聞きながら、少年の頭の中ではオレが現実よりさらにひどい状態でヤラレまくっていた。さらにこともあろうか、少年自らがオレを組み敷いて好き勝手している姿を描いていたのである。 童貞なだけに妄想力は誰よりもある性少年。それが変態集団、もとい勇者集団の苦労人、踊り子ドウテの本性であった。 そしてそんな彼に授けた忍者の曲。 ドウテに教えたこれが今までにないビックウェーブトラブルを呼び込むことになる。 オレと言う魂にとっての最大の天敵が静かに、だが、確実にオレの歩み寄ろうとしてた。 end 次回、※祭りの予定。あくまでも、予定ですがw この章は、モブVS踊り子ならぬ、童貞妄想爆発ウ○ーン少年合唱団でした。 UNION・■BL♂GARDEN■ |