2.忍者になりたい。 「『恋して〜』」 大好きだったコスプレ少女の歌。 忍者になれるなら、なりたいものだ。歌にあるように、飛んでいきたい。 「『にん〜』」 2番まで歌い終わって、オレはポーズを決める。歌が好きなオレは歌いだしたらつい踊り出してしまうのが癖だ。前世でもよく、親友にバカにされていた。 そして、歌い踊り終わって訪れるのは僅かな羞恥心と達成感。さらに静寂。 しかし、今回は違った。いきなり飛び込んできたボーイソプラノの声。 「ソウモ神様!」 なんとも不思議な呼びかけをオレにしてきて、跪こうとしているのは少年だった。 なんだ?このウィーン少年合唱団を退団したてって感じの少年は。 そう思うのには彼のかっこも原因だ。 お尻のラインがしっかりと見えている短パンをはいているので、つるつるの生足が丸見えだ。 さらに、胸だけを隠す防具を素肌に付けているので、へそ出しルック。 村の鼻垂れたガキ共なら、おいおい風邪引くぞで済む話だが、コマーシャルに出てもおかしくないほどの美少年なのだ。 クルンッとカールした栗色の髪に加えて、大きく澄んだライトブルーの瞳にキラキラとした輝きを宿している。 そこら中に変態が居る中、純情そうな彼が狙われることになるだろうと誰もが思うだろう。 「こんな所で…ソウモ様が…」 まるで熱に浮かされたような口ぶりに、オレは彼の心配をしている場合ではないことに気付いた。 2回もオレに向って呼ばれる名前、ソウモ神。それが何者かオレは知っている。歌と踊りの女神だ。そう、女の神だ。 それをなぜオレに向かって言ってくるのだ? 分からない形にトラブルの匂いがぷんぷんしてきて、少年から逃れたくなる。 「ああ。ぼくはこの為に辛い旅を続けていたんですね。貴方に出会う為に…」 大きな目をウルウルさせてオレを見てくる彼にうっと息を詰まらせる。そのキラキラに光っている目は純真無垢そのモノで、本当にオレを神か何かだと間違っている様子だ。 「…人違いだよ」 ぼそっと訂正するが、オレの言葉はするっと無視されてしまった。 「最強勇士様に振り回され、騎士様にからかわれ、聖職者様に苛められ、伝説の魔法使い様に認識してもらえず、苦労した日々…。ああ。ようやく報われる時がきました」 本当に辛い日々だったようで、可愛らしい童顔の眉間にくっきりと深い皺を寄せてブツブツとつぶやいている。 そんな彼に事情も良く分からない癖にオレは思わず同情をしてしまう。 オレも周りの環境に苦労しているので、彼の苦難が手に取るように分かる。絶倫、サドコンビに、露出狂ストーカーに、腐れナルシストに…。 と、ここで気が付く。変態はそこら中にいるのではなく、オレの周りに屯していることをである。 「もし可能でしたら、先ほどの舞をぼくに見せて頂けませんか?」 舞と言われて、何のことか一瞬分からなかった。戸惑いを見せていると、もう一度、懇願される。 「神語の歌を歌いながら踊っていましたよね?本当に素晴らしかったです!」 そう言われて、何のことか見当はついた。しかし、神語と言われて頭を捻る。 「神語?」 「ええ。そうでしょう。国都の聖職者や博識人でもほとんど話せない、神のお言葉です。貴方は知らずに使っていたのですか?」 寝耳に水とは正にこの事である。まさか、日本語が神の言葉と言われる言語になっているとは思わなかった。 ゲームなどが好きだったオレはここで重要なフラグを見つけた。この世界は日本に繋がっている。日本からトリップやらでやってくる神などがいるのではないか? もしかするとオレがここに転生したのも何か意味があるのではないか? 昔に飽きるほど悩んだ事がここで再び復活してきた。 しかし、ここでもオレは頭を横に振った。 意味があるなら勇者とかそれなりの立場になるだろう。気まぐれで元日本人の神やらがその辺に転がっている魂をぽいっとこの世界に放りこんだんだな。 オレは結局、いつもと同じ結論にたどり着いた。 17年のここでの生活。ボブやサブに挟まれて平穏とは言い難い日常を送ってきたのだが、それなりに愛着はある。だから今の生活を捨ててまで、転生の意味を探すつもりはなかった。 そして、オレは目の前の少年に対して誤魔化す道を選んだ。 フラグ♪踊り子でした。 UNION・■BL♂GARDEN■ |