1.ボッチの呟き へいへい。聞いてくれ! オレはこの前、転生の理由が村人モブであることを知ったんだぜ。 そして村長に押し付けられた村人Dを結局やらされる羽目になった。 こんなことなら、出稼ぎに行った両親に無理言ってでも付いていくべきだった。そうすれば、あんな恥ずかしい言葉を見ず知らずのイケメン集団に吐かずに済むのに…。 ちなみに村人モブはその期間のみ特別手当が支払われる。一体どこから金が出るねんと思うが、それは暗黙の秘密となっていた。というか、普通の人にとってはそれは当り前過ぎて疑問を持つことがないらしい。 長いモノに巻かれろ精神の元日本人であるオレはあえてそれに突っ込みを入れたりしない。 そして、とうとうこの村もウエルカム勇者体制を整える期間が訪れた。 オレは暗く寝静まった村のほとりにある池に小さな小石を投げ込む。 これぐらいしか暇つぶしができないのだ。 明日から家の横の空き地に畑でも作るか。母ちゃんがいなくなってから荒れ放題だしな。その為に隣の武器屋のおっさんに頼んで鍬を磨いてもらうか。錆ついているしな。 よし。ボブの嫌いな野菜とサブの嫌いな果物にしよう。 …いや。なんとなく悲惨な未来が見えてくる。 手塩をかけて育てた可愛い菜っ葉や果実が一夜で姿を消し、その畑の前でorzポーズをしているオレ。 『食えねえもん作るお前が悪い』 などと、引き千切った葉をばら撒く次期村の長、ボブ。 『ディーが育てた物をボブだけが食すなど、到底許せません』 などと、まだ熟していない実を足で踏みつぶす次期村の牧師、サブ。 決してあり得なくない未来予想図にオレは嫌がらせを断念することにした。結局候補にしたのは大衆的な野菜と果物である。これなら道具屋のおばちゃん、優しいから育て方教えてくれるだろう。 ぼーと池を眺めながらそんなことを考えていたが、明日からの予定についての考察は一瞬で終わってしまう。 そして再び暇になる。 その時、離れた所から微かに笑い声が聞こえてきた。 だれだ?と首をかしげそうになるが、ハッとその正体を思い出す。 そうか!あれはおそらく村人A〜Cだ!暇だから話しているんだ! 普段、ボブサブに振り回されているオレはまともに話できる友達はいない。同じ境遇なのだから、ここで交遊を深めてもいいだろう。 そう思って近づいていく。村の入り口付近でやはり3人で談話を楽しんでいた。村人モブはオレとおなじぐらいの25〜15歳の独身の若者が選ばれる。ちなみにオレは17歳でボブサブは揃って20歳だ。いずれも嫁持ち子持ちになってもおかしくない歳である。とっとと貰いやがれと思うが、それが現実的でないことも重々分かっている。 高ぶる気持ちを抑えつつ見える所までゆっくりと近づいた時、彼らは歩み寄るオレに気が付いた。そして彼らは、ギャグマンガで見るような動作を揃いも揃ってしたのだ。 まず、気が付いた途端に、まるで熊に出会ったかのように驚き、両手を広げて飛び上がった。そして、構わず近付いていったら、ゾンビから逃げるように3人は3方に散っていった。 その逃げ足はまるでマンガの渦巻きのような足である。 呆気にとられその場で立ちつくす。再び、場は静まりかえった。 その間にゆっくりと戻っていくオレの思考がこの現象の回答を導き出していた。 「あいつらか!」 幼なじみズのしてやったりの顔が脳裏に浮かんでくる。おそらくオレと会話するな、近寄るなとでも脅しているのだろう。 長年の付き合いから嫌でも二人の行動パターンが読める。 やはりこれから続く長い夜はボッチ生活なのか…。畑仕事しかすることないのか…。 そう思うとオレのピュアだった心はやさぐれてくる。 来るか分らない勇者集団。可能なら村ごとスルーしてほしいところだ。しかしそうすると勇者が魔王を倒すまで、延々と昼夜逆転の生活を送らなければいけないらしい。その間、オレはボッチ畑仕事…。 来るならさっさと来て、いなくなりやがれ! とまるで予防接種を受ける注射嫌いのガキが開き直るような心境で、無関係の彼らにその苛立ちを込めて毒を吐いた。 けっこうリクエスト頂いたので、調子に乗ってシリーズ化です。お付き合いくださいませ UNION・■BL♂GARDEN■ |