夜の7時ジャスト。オレは煌の部屋へと行く。
行きたくない気持ちを必死に抑えて、勝手に押し付けられた鍵となるカードで扉を空けた。
その途端に、腕を掴まれて、中へと引っ張り込まれる。
「待ち遠しかったぜ、大地」
煌は背後から抱き付き、熱い息をワザと吹き込むようにオレの耳元で囁く。びくんっと痺れが走るのを無視して、オレは煌を咎める。
「いきなり、盛るな。鬱陶しい」
「悪い。不本意だろうけど、お前の口から許可をもらったのが、思いのほか嬉しくてな」
「不本意だと分かっているなら止めてくれ。そしたら、少しはお前を見直すぞ」
「それは悪いが聞けない。お前はモテるからな。慎重になりすぎて、横からかっ去られる間抜けになるつもりはない。約束は約束だ。身体だけでも先にきっちりと頂く」
ひどく男臭い苦笑いをしながら、煌はオレの耳に軽く口付けをしてきた。
「…お前、見えなかったのか?オレの醜い身体を」
悪あがきだと言われてもいい。抱かれる決意はしたが、それでも少しぐらいは抵抗したいので、オレはそれに望みを掛けた。きっちりと見せたつもりだが、見えてなかったのかもしれない。
「お前が大胆に広げてまで見せてくれたんだ。その神秘で美しい身体はきちんと堪能させてもらった。目の前に届かない極上の餌を吊るされた獣の気分だったぜ。おかげであれから俺は大変だったんだぞ?ろくに動けない身体なのに、お前に突っ込みたいと主張する息子を慰めることもできずに、必死に鎮まるのを待ってたりしてな。だから、今日は遠慮はしない。諦めて大人しく、喰われとけ」
そう言うと、オレの顎を掴み、後ろに振り向かせて深い口付けをしようとしてきた。だが、オレは素早くしゃがみ込み、煌の拘束から逃れる。
「大地…」
ここにきて逃げると思ったのか、不穏な低い響きで名前を呼ぶ煌に、オレはそれを否定する。
「こんな玄関口で抱かれるつもりはねえ。ベッドに行くぞ」
オレは勝手に部屋の奥へと足を進めて、寝室へと入った。そして、勢いよく服を全部脱ぎ捨てる。一糸まとわぬ姿になり、オレは四つん這いになって煌に向かって臀部を差し出した。
「自分でローションを塗ってきたから、愛撫などはいらねえ。とっとと突っ込みやがれ」
オレはやけくそになり怒鳴り散らすようにして煌へ自分の身体を差し出す。そうでもしないと、躊躇してしまうオレの弱気な心は挫けてしまいそうになるからだ。
実は自室でオレは自分の肛門にありったけのローションを塗り込んできた。少しでも煌に抱かれる時間を少なくするためだ。
オレの勇気をまるで無意味なものにするように、背後から音のない小さな笑い声が一つ溢される。それがひどく癇に障って仕方がない。
「その気が失せたなら早く言えよ、煌」
「失せる?あり得ないな。これ以上に無く興奮しているぜ。ただ、お前のその健気な行為が嬉しかっただけだ。お前が自分で俺の為に解して来たんだろ?」
オレの色気の欠片もない行動を、こんなふうに解釈するこの男の変態ぶりに辟易する。