あえてこれを選んだ理由。それは明白だった。奴はオレの事を諦めた訳ではなかった。それどころか、全く変わらないとまで告げている。
『身体を隅々まで洗って待っておけ』
奴に言われた事が頭を占領する。それに対してなんの対処も思い浮かばないまま、オレは一日中焦りと苛立ちを抱えていた。
だからこそ、華奢な男の誘いに乗った。こいつの為に、身体を綺麗にするなど、死んでもしたくない。それに、男を抱いていれば、こいつもその気が無くなるのではないかと言う安直な考えもなかったわけではない。
だが、今こうして、奴…煌の表情を見て、その一縷の望みは捨てざるを得なかった。
「やっぱ、あれはお前が…」
オレの小さな呟きも拾い上げて煌はその不気味な笑顔のまま物騒な事を言ってくる。
「俺以外に、贈るような奴がいるのか?そんな奴は俺が直々にぶっ潰してやるから言え」
「いっ、いねえよ、そんな奴」
その口調があまりにも重々しくて本気である事が感じ取れた。だからオレは即座に否定する。
「どうだかな、蠍まで誑し込んでいた性悪だからな、他にもいるだろ?その毒にやられたような奴が。ああ、そこのビッチもそうか」
この異常な状況…後ろで全裸で腕を縛られたままバイブをお尻に突っ込まれている男が横たわっていることに、煌は今さら注目する。
「さっ、崎守さまぁ〜…。助けて下さぃ〜」
今までオレに対して媚を売っていたくせに、突然現れた元風紀委員長である煌にまで甘えたような声で助けを求めるビッチに、その面を靴のまま足蹴にしたくなる。
「…ざけんなよ、大地」
先ほどまでは表面上には薄気味悪い笑みを浮かべていたくせに、その仮面すらも取り外して、眉間に皺を寄せて不機嫌その物の顔でオレの襟首を掴んでくる。
「楢橋様が僕に、こんなひどい事してくるんですぅ〜」
煌のこの行動に自分の作戦が成功したと思っているのか、半分以上自分がしたくせに平然とオレのせいにしてくるビッチ。
ビッチにしたら、ここで煌に泣きつけば助けてもらえて、さらに怯えたふりすれば抱いて慰めてもらえるかもしれないと計算高く考えているのかもしれない。
少し前まで、天下の風紀委員長として評判が良かった煌がこの状態の自分…被害者を見捨てたりするはずがないと確信を持っているのだ。
先ほどと同じように媚びるように上目使いに見上げる目は、まるで社交界で男を漁る女どもの目その物だった。
だが、こいつの思惑などどうでもいい。だから、オレは男の方向に顎をしゃくってその思惑に乗ってやる事にした。
「なんか文句あっか?それなら、とっととそいつを助けに行けよ」
そして、そのままそいつに溺れてしまえと思う。ホモ同士、上手くいくだろう。