今日とて無視するつもりだった。こいつの一言を聞くまで…。
『楢橋様の女にしてほしいのです』
普段であれば蔑視の眼差しを向けて立ち去っていただろう。しかし、今日だけは…荒れ狂う混沌とした感情の渦を身に棲ませていたオレには、その言葉は無視できるものではなかった。
自分の暗い闇のような感情が彼に向かう。
自分でもわかるほど冷酷な笑みを浮かべてオレは条件を付けてその誘いに乗ることにしたのだ。
男のケツなど触りたくもないオレは、男に自分で解してくるように言った。さらに、手を後ろに縛ったまま、オレのモノを勃たせることが出来れば、突っ込んでやると…。
誰もが拒否されていることを知っている男は、優越感に浸った決して美しくない笑顔を見せながら、オレを部屋へと連れ込もうとした。しかし、他人の部屋に入る気もないオレは使われていない資料室でさせることにした。
自分の性技によほどの自信があったのだろう。まったく勃ってもいないオレのペニスを美味しそうに舐め上げながら愛撫していく。まだふにゃふにゃでしかないそれを口いっぱいに含んで吸ったり舌で転がしたりしていた。
だが、オレにしたら当然のごとく、変化しない。そればかりか、見せてないので分からなかっただろうが、オレの両腕は鳥肌になっていた。
やはり男では気持ち悪いとしか思わなかったのだ。
数分は好きなようにさせていたが、それでも限界がきた。ここまでさせたら文句は言わないだろうと思っていたが、奴は女々しくオレに縋るような目を向けてきた。
「ひ、ひどい」
「そう言いながら腰を動かしてるんじゃねえよ、このマゾが。てめえなんぞ、これで十分だろうが」
オレはそう言うと、奴の開いた股の間に靴の履いた足をぐりぐりと押し回す。奴の後腔に入っているバイブをねじ込む為だ。
それなりに大きさがあるものだったのに最奥まで抉られて男は啼く。
「いっやぁ〜ん。ああっ!」
嫌だと拒否を口にしながら、華奢な男は嬌声を上げて喜んでいた。腰も小刻みに動かしている。真性のマゾなんだろう。ますます白けてくる。
「お前を喜ばすつもりはねえ。さっさと失せろ」
まるで蹴りあげるように足を振り上げる。その衝撃で男の身体は少し浮いて、後ろに倒れ込んだ。それすらも快感にすり替わったようで、白濁した液を地面に跳び散らかしながら床に伏せた。おそらく射精してしまったのだろう。
「じゃあな。これに懲りたら、もうオレに話しかけるな。視界にも入ってくるな」
さっさと手を拘束している紐を乱暴に外し、床でひくひくと身体を震わせて余韻を味わっている男にそれだけを言い捨てて、この狭い資料室を出る為に扉に向かった。
がちゃりと、無機質な音が鳴り響く。
鍵を掛けていたはずだが、誰かきたのか?
そう思いながらもオレは足の歩みを変化させる事はしなかった。さすがにこの現場を見られたら停学にはなってしまうだろう。だが、半分不登校であるオレにとって停学程度であれば、全く問題はない。
しかし、オレの見当は大きく外れた。
少しだけ空けられた扉からそっと姿を現したのは、黒く大きな革靴だった。