上には上がいる | ナノ
「てめえ!よくも!俺の女を」
 
 そう言って俺に突っかかってくるブ男。スローモーションかと思えるほどゆっくりな拳をなんなく避ける。

 やべ、こいつと穴兄弟になったなんて最悪だ。女はそこそこだったから食っちまったが、こんな奴とそういう関係って知ってたらやめといたのに。あ〜、キモ。

「あっちが誘ってきたのに、俺が責められるなんておかしくない〜?」

 こう言うと相手が逆上することが分かっているのに、俺の口は止まらない。

「それにあの女、がばがばだったし、何よりてめえみたいなキモ男と同じ穴に突っ込んだとかマジ勘弁。こっちが慰謝料ほしいぐらいだよ」

 自分でも最悪なことを言っているのは充分理解している。だが、本心なのだから仕方がない。

「き、貴様!ぶっ殺してやる!」

 いきなり俺に絡んできたニキビ面の男が鬼のような形相で、こちらに飛び込んでくる。その顔は何本も青筋が立っている。

 う〜ん、いい殺気。でも、まだまだだねぇ〜ニキビくん。

 俺はふっと息を小さく吐いてから、足を振り上げた。そして、イノシシのように迫りくる巨体の豊満な腹に蹴りを入れる。
 
 ボコッと大きな音と息を飲むようなうめき声、そして次に、ドスンと大きな荷物が地面に落ちるような音が辺りに鳴り響く。
 俺の蹴りを受けて、一撃でニキビ面の大柄な男が昏倒したのだ。蹴りにしたのは、こいつに触れたくない一心からだ。

「いえ〜い。俺、やっぱ最強!」

 俺はガッツポーズをした後、倒れた男を完全に視界から外しさっさとその場を立ち去った。

 そんな俺の姿を、奴が不気味な笑いを口に浮かべながら見ていたなど、この時の俺には想像すらすることはなかった。



 清藤蓮哉(せどうはすや)。通称、外道ゲスヤ。自他とも認めるヤリチン最低野郎だ。
 元ミス日本だった糞のような女の美貌をそのまま受け継いでいたために、タレントでもなかなかお目にかかれないほどの顔立ちをしていた。別に女顔と言うわけではない。茶色で軽くウエーブの掛かった髪に、ライトブラウンのすこしつり上がった瞳。すっと伸びた鼻筋で、10人いれば10人ともが美形だと認めるだろう。
 180pを超す長身は、元スポーツ選手だった今は亡き男の遺伝子を受け継いでいる。充分に引き締まった体躯に長い手足。
 街に出ればウザいスカウトに声をかけられない日はないほどだ。

 その容姿のせいで、数多の者が群がってくる。
 自信満々な美女。たまに美少女のような男。
 俺の隣の席を狙って、苛烈な争奪戦を繰り広げられるのが日常だ。
 さらにその戦いに拍車をかけるのは俺自身の所業のせいだ。

 糞女から受け継いだのはなにも美貌だけではない。糞女は次から次へと極上の男を侍らせて、存分に貢がせていた。
 周りに取り巻きがいるくせに、自分が興味を持てばたとえ人のモノであって手に入れずにはいられない。
 彼女のせいで崩壊した家族もいるぐらいだ。

 そんな外道な血。それを間違いなく俺は引き継いでいた。好みの女、たまに男が寄ってくるのを俺は拒まない。後ろに入れられるのはごめんだが、入れるなら前でも後ろでも構わない。病気にはなりたくないのできっちりとゴムはするが。
 そう言う訳で二股、三股は当り前。と言うか、俺は誰一人として愛を囁いたことはない。それなのに、勝手に彼女面をして裏切られたなどと問い詰めてくる。
 それを俺は『うぜぇ』の一言で切り捨てる。たいていは放心状態になるか泣き崩れるが、たまに俺に向けて刃物を振り回してくる奴もいた。
 そんな時は決まって俺はそいつを思いっきり殴り飛ばす。女だろうが、女もどきの男だろうが容赦しない。

 そういう事を繰り返すと、巷では悪名高い高校生として名を知られることになった。だれが言い出したか名前にかけて、外道ゲスヤと呼ばれている。
 俺はひそかにこのあだ名を気に入っている。ビッチ悪女から生まれた外道ゲスヤ。それを糞女に言うと豪快に笑い飛ばされた。やはり、ここにも血の繋がりを痛感する。

 
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