二章-14〜百路side〜
「悪い。さっきお願いって言ったけど、訂正させて。守られるだけのお姫さんでいるつもりないねん。だから、これからは俺も聖にきちんと言うことにするわ。だから、それを見守っといて。えっと…零さん」
俺があえて名前で呼ぶと風紀委員長は切れ長の目を大きく見開いてから、顔を片手で覆い隠してそっぽを向いた。
あ、もしかして恥ずかしがってんのか?
「零さんって…」
震える様な声で聞いてくる。今なら分かる。彼が感極まって喜んでくれているのが。そう思うと、俺も色眼鏡でこの人を見ていたんだなと少し反省をした。
「あかん?友達なら名前呼びやろ?」
俺が軽い口調でそう言うと顔を隠したまま小さく返事を返してきた。
「零でいい。で…えっと…その…」
普段の彼からは想像もつかないほど、次の言葉を言うのを躊躇している。
なっなんや。このキュンっと来る感じ。これが、俗にいうギャップ萌えって奴か?マジでこの人、核兵器並みにやべぇぞ。
何を彼が言いたいのか分かるだけに、俺は悶え死にそうな境地になる。
「百路な、俺。とりあえず友達になりたての恒例行事として、携帯アドでも交換せぇへんか?零」
「!!…ああ。今、メモする」
そう言うと素早くポケットから小さな手帳とペンを取り出そうとした。
「お互い携帯持ってんだから、赤外線でええやろ?」
そう言ってオレは携帯をズボンから出した。
しかし、零は少し気まずそうな表情を浮かべている。
「オレ、分からないんだ」
「は?なにが?」
「赤外線、使ったこともねぇから、やり方、しらねぇ」
先ほどの比にならないほど恥ずかしそうにそっぽを向いて、爆弾発言をかましてくる。
だから、この人…ギャップ萌え…って、これはもうええわ。以下同文じゃ。
俺は何度も同じ所に嵌る自分の心に突っ込みを入れつつ、話を進める。
「携帯みせて。たぶん、分かるから」
そう言って手を差し出すと、素直にズボンのポケットから黒い携帯を渡してきた。
ふ、古!これ、まさにガラケイだろ。えっ。なんでこんな昔のヤツなんだ?
おそらく4年ほど前の機種である。ストラップすら付いていない。
根っからの関西人である俺は無意識に質問をしてしまう。
「機種変せえへんの?これ、めっちゃ古いやん」
「…携帯なんか親か従兄との連絡にしか使わねぇし。誰とも連絡しねえから変える意味ねぇ」
本当に携帯に執着がないのは渡された携帯を見れば分かる。壁紙すら変えていない。赤外線のツールは容易に見つかって、自分の携帯とくっつけてアドレス交換をさせる。そこで、俺は彼の悲しい呟きが真実であることを悟った。
俺のアドレスが9番って…。どんなけ交遊が少ないねん。この人。それに、アドレス、番号のままやん。
「まじで携帯使わへんねんな」
「そもそも、壱兄に無理やり持たされただけだし」
ここで先ほども浮かんだ疑問を口に出す。
「壱兄って…」
「ああ。ここの生徒会長だ。オレの義理の兄なんだ。これは内緒な」
何気なく投下された爆弾に、俺は愕然としてしまう。
これ、俺が知ってしまってよかったんか?
「生徒会と風紀って仲悪いんじゃ…」
「壱兄と二夜…前風紀委員長が仲悪いから、そう思われているだけだ。まあ対立する立場だから、公にはお互いに疎遠になっている。それに、壱兄と親しいとばれたらオレが制裁されるからな。黙ってもらっているんだ」
「はぁ?制裁?ありえへんやろ?ありえへんって」
考えるより先に否定してしまう。これはこの学園にいる全ての生徒が否定するだろう。
誰が天下の風紀委員長を制裁できるちゅうねん。逆に、生徒会長を羨ましがる生徒も多いだろう。なんせ、孤高の人だと思われているからだ。
「なぜだ?壱兄を慕う奴は学園中に溢れているんだ。義理の弟だと言う事でオレごときが親しくしてたら煩わしいと、思う奴も出てくるのは当然だぜ」
オレごとき…。オレごときと来ましたよ、奥さん。
脱力感に見舞われながら、俺は新たに決意を固めた。とりあえず、宣言しとこう。
「…零さんや」
「ん?」
俺の茶化したような口調に零は頭を傾げてくる。
「俺、がんばるわな。そのネガティブ鎧、俺が脱がしたるわ。あと、おおっぴらには仲良う出来ない分、メール攻撃、覚悟しとけよ!」
「メールくれるのか!」
弾けんばかりの声で訊ねる零にニヤッと笑いながら答えた。
「朝のおはようから、夜のおやすみまでな」
頻繁に送って、どれほど慕われているか教えるつもりだ。本性を知ってしまった俺の使命のように感じた。
「やっぱ、お前、優しいな。こんな厄介なオレに…。お前と友達になれたことはこの学園に来た一番の幸運だな」
無表情の仮面をどこに投げ捨てたとばかりに歓喜溢れる満面の笑顔を向けられる。色気たっぷりに微笑まれて、俺は思わず顔を伏せてしまう。
だから、これは無意識タラシなだけだ。俺はノーマル。そして零もノーマル。友情、友情。俺はおっぱい好き。おっぱい最高。おっぱいラブ。
小さく呪文を呟きながら、紅潮した顔が元に戻るのを待っていた。
(百路side end)
2章end
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