二章-12〜百路side〜
    

 しばらく温かい雰囲気に包まれていた。
 風紀委員長は相変わらずほとんど表情を出さないが、均一のリズムで俺の頭をポンポンっと慰めてくれていた。

 突然、俺は正気に戻る。

 な、なんちゅうこと、この人にさせてんねん、俺。あかんやろ。

「すっ、すいません!お…俺…」

 膝に胸を付ける勢いで、俺は大きく彼に頭を下げる。忙しく学園で一番慕う人が多いであろう風紀委員長に慰めて頂くことに、強い罪悪感を覚えたからだ。

 慰める頭が無くなった為に空に浮いた右手を、ジッと眺めながら風紀委員長は再び不可思議な謝りを口にしてきた。

「…あっ、すまない。つい、触ってしまった」

「いえっ。だから、恐れ多いってだけで…」

 思わず本心をそのまま口にする。

 この人、なんでこんなに何回も謝るんやろ?おかしいやろ?俺はともかく、他の生徒なら、触ってもらったことを歓喜する場面やぞ?

 少し気持ちが落ち着いてきた俺は突っ込みを再開する。

 しかし、次の瞬間、俺は自分の耳が腐ったのかと本気で疑ってしまった。

「…どうせ、オレは閻魔大王だよ。…ちくしょう…」

「えっ!えっ!!」

 思わずその色気全開な鉄仮面を、穴を開ける勢いで見つめてしまう。

「閻魔大王って…」

 いきなり飛び出したこの言葉をそのまま繰り返して質問をする。無礼になるとは思うが、ここで聞かなければ夜寝れなくなるかもしれない。それほど衝撃的で意味不明の呟きだったからだ。

「っ…ワリィ。タダの愚痴だ」

 珍しく鉄仮面を崩し、苦笑いを僅かに浮かべながらオレから視線をわざとらしく外してきた。

 あかん。ここで終わったら、マジで寝れん。

「…雪村様」

 気が付いたら俺は逃がさんとばかりに彼をジッと見据えていた。するとすぐに彼は、きまり悪そうな口調で、再び奇想天外なことを口にしてきた。

「あ〜。悪かったよ。オレの事、お前も怖いんだろう?救うのも、できるだけお前が知っているような風紀委員に頼むから、今日だけはオレで勘弁してくれ」

 言い捨てる様な感じだったが、それが本心であることはなんとなく分った。

 しかし、その内容を理解するまでかなりの時間を要した。

 俺が風紀委員長の彼を怖い?いくらもやしの俺でも、恩人を怖いと言うような恩知らずではないぞ?それに、常人でないオーラに圧倒されることはあっても、この人を怖いって言うような人はいないだろうに…。

 えっ、この人、本気でみんなに怖がられているって思っているのかい。

 なんか今の口調も、自分やと絶対俺が嫌がるとマジで思ってそうやしな。

 なんとか気合を入れて訊ねると、案の定、当然とばかりにこう答える。

「…オレの顔が怖いからな。だれもが目を反らすし、震えあがったりする」

「そっ、それは…」

 皆が目を反らすのは、その尋常でない色気を放つ存在を直視するに耐えられないからだろう。特に強い眼光を放つ目で真正面から強く見られると、慣れない者は思わず顔を赤くして下を向きたくなる。

 思わず詰まったのがいけないのだろう。感謝を述べても、俺の言葉はただの気遣いのように取られた。しまいには自分のことを嫌われもん扱いをする。

 いい加減、堪忍袋の緒が切れてしまった。関西弁全開で突っ込みを入れると、その容姿であり得ないほどマイナス思考を出してくる。

 遠巻き、友達になれないはともかく、キノコって、なんや!そんなピッカピカのキノコなんぞあるかい!

 ってかこの人なに?なに?もしかして、天然?さらに外見について全くの無自覚?

 突っ込み所満載過ぎて、冷静になれない俺は鼻息を荒くしてそれを突っ込む。すると傷ついた顔をしながら、やはりあり得ない事を言ってきた。

「だから、閻魔大王だろうが。どうせ、強面さ。寄れば、噛みつくか殴られるとでも思われているんだろ?」

「んな訳あるか!このすっとこどっこい!」

 脊髄反射のように突っ込みに入れてしまう関西人の悲しい性。
 しかし、その整った切れ長の目をわずかに見開きながらこちらを見ている風紀委員長の顔を見て、ハッと我に返る。

 ぎゃ〜やってもた!よりにも寄ってこの人に『すっとこどっこい』って、ありえんやろ。ありえんやろ。
 
 そう思って謝り誤解を解くべく言葉を並べると、心底あり得ないと言った表情で疑問をぶつけてくる。

 ヤバい。突っ込みのせいで猫がかぶれん。

 俺は最強の天然ボケを前に関西人の血がボコボコと沸きだってしまい、素を隠せなくなっていた。

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