二章-8〜百路side〜
    

 その歯車が大きくずれたのは、入学から半年たった3週間まえのことである。運よく寮において、同室の者がいないので気楽な一人暮らしをしていたのだが、そのしっぺ返しを食らうような嵐が到来した。
 嵐の名を浜辺聖と言う。
 転校してきた彼は、当然のごとく、一人部屋を満喫していた俺と同室になる。

 初っ端から、トラブルを背負って奴はやってきた。

 かつらを分るようなボサボサ頭に黒ブチ眼鏡をかけている不潔な奴がずかずかと部屋に入ってきて、

「うわぁ〜でっけ〜。すげぇ〜な、おい」

 と喚きあげる。そのキンキン声の五月蠅い事。
 昨日寝る暇を惜しんで右側の部屋を片付けて、リビングやキッチンもスペースを開けたりしたので、寝不足なのだ。だが、彼の一言と背後の人物によって、その努力を無にされようとしていた。

「え〜、俺、左側の部屋がよかったのに〜」

 右の部屋を案内すると、そんなことを言ってくる奴に後ろの奴がタカピシャに俺に命令をしてきた。

「君、聖がこう言っているんだ。さっさと荷物を移動したまえ」

 そう言ってきたのはなぜか、副会長をしている雲井先輩だ。ある意味俺にとっては雲の上の人。まあ、関わりになりたいとはこれっぽっちも思わないが。
 ともかくそんな人がなぜここにいるのか全く分からない。茫然としていると、苛立ちをその奇麗な顔に出して理不尽なことを口にしてきた。

「部屋など、どちらでもいいだろう。それとも、なにか?この私に逆らうって言うのか?」

 ギロンッと睨んでくる王子風の彼に心の中で激しく突っ込みを入れる。

 どちらでもええけど、その理論はそこのだだっ子にせいよ。あんさん、自分で言ってておかしい思わんのかい。

 だが、俺の口からは出たのは別の言葉だ。

「分りました」

 長いものには巻かれろ精神だ。おかしくても彼は学園で絶対の権力を持つ生徒会のbQだ。一般生徒の俺に逆らえる訳が無い。

 あんまり関わりたくない俺はとっとと部屋に帰ろうと思った。変更するならさっさとしないと寝ることもできなくなるからだ。しかし、それを遮られることになる。

「おまえ、名前も言わずにいなくなるなんて失礼だぞ!」

 え〜。お前も名乗ってないやん。

 などとまたまた内心突っ込みをしつつ俺は、転校生に冷静に名乗る。

「香田百路です」

「百路な。俺、聖。よろしくな」

 苗字なしかい!でもっていきなり名前呼びかい!

 突っ込み心は止まらない。

「あと、六呂。そんなこわい面して、百路脅したらダメだぞ?俺、部屋諦めるから」

 なら、最初っから言うなよ。

 俺の心とは違って、目の前の王子は感激したように浜辺を見つめている。

「ああ…。聖は優しいんだな」

 …。

 モウカッテニシテクレ。
 この寸劇、見たくないわ〜。

 できる限り、こいつには関わらない様にしよう。俺はこの時心に決めた。この決意はまったくもって正解だったのだが、聖とやらが何を思ったか俺を親友扱いをし出したことで、思いとは裏腹に関わらざるを得なくなる。
 そして、俺の学園生活は波乱に満ちたモノになる。さらに俺は学園の混乱の中心部に引きずり込まれるのだ。

 

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