二章-7〜百路side〜
    

 中学よりこの学園に入学して俺は、その独特の空間に唖然とした。中高一貫の男子高であり、さらに全寮制である。
 むさ苦しいところで6年間も過ごさないとあかんのか〜と、その程度の覚悟しかなかった。

 そもそも、この学園に来たのは奨学生になれば全額免除になるからだ。兄弟が多いので、決して貧しくもないが裕福でもないので少しでも家計の負担を減らすべくそういう学校を選んだ。全寮制で生活費も一部負担してもらえる破格の待遇に、俺は飛びついた。
 
 しかし、門をくぐってみると、そこは異世界だった。男のみの全寮制はバイやゲイの宝庫と言う俗説だが、まさかそれが当たり前であり日常茶飯事で男同士の恋愛を目にするとは思いもしなかった。
 さらに女化したような小柄な男どもがいるとか…。美形には取り巻きとして親衛隊なる者ができるとか…。男が男を侍らすとか。

 ありえへん、ありえへん。と何度心の中で叫んだことか。関西育ちの俺は一々、心の中で突っ込みを入れていた。

 そして、俺は入学3日で猫を被り容姿を偽ることにした。美形キラキラな奴らには到底及ばないがそこそこもてる容姿であることは自覚していた。しかし、入学時に強度の花粉症であるのでコンタクトを眼鏡にし、マスクも付けていた。そんなナリだったので髪も整えたりできなかった。もちろん、花粉シーズンが終わればそれなりにきちんと整えるつもりだったが、ここは目立ちたくないと言う思いから眼鏡も髪型もそのままにすることにした。
 そして、しゃべりも関西弁を封印し、共に過ごすのもその場限りの関係にしていた。あまり深入りすると、薔薇の世界に入り込む危険があるし、別に親友などを作るつもりもなかったからだ。

 差しさわりなく平穏に暮らしている間に3年間が過ぎ、高校へ入学となった。高校になったと言っても、同じ敷地内だしそれほど変わり映えのしないものだ。
 特にSクラスはほとんどメンバーは変わらない。

 美形が多いのでできれば他のクラスになりたいものだが、奨学生である以上それは無理である。クラス落ちすれば、通常の私立学校の倍以上の学費を払わされることとなる。

 そして、入学式で学園中が震撼した。たった一人の生徒によってである。

 雪村零

 美形ばかりのこの学園に置いて、一人異次元の美貌と体躯、そして風貌を持つ彼に、誰もが言葉を失った。
 間違っても女顔なのではない。だが、その気にない俺でもゾクッと背中がしびれるほど色気を感じるのだ。表情がないので余計に作り物染みた完璧な顔立ち。セクシーな男前と言う言葉では足りないほどのモノだった。

 圧倒されたSクラスの者たちは彼に声を掛けることもできないままでいた。特に子犬か女子高生のような奴らが近づきになろうとタイミングを図っていたが、彼の周りにいるFクラスの奴らや彼自身の人を寄せ付けない雰囲気に実行に移せずにいた。

 俺はただ、彼に感心していただけだった。

 すっげぇ〜。あんな芸能人でもいないほどの顔持ってたら、バラ色の人生をおくれてるんやろうな。女もほっとかんやろうし。ここでも女もどき男が媚売るやろうしな。でもって首席って、詐欺やろ?どこまでパーフェクトやねん。サイボーグか?耳でも引っ張ったらパカーンってあの美形顔が割れたりして。ってどこのSF映画や。

 などと1人ボケ一人突っ込みをしていた。

 そして一週間後、再び学園が震撼する。彼がなぜかSクラスからFクラスに変わったのだ。

 なんでやねん。

 とは思ったが、俺は別に調べたりしなかった。自分の生活にあんな派手男は入ってくるはずがないし、そうなれば同じクラスだろうが違うクラスだろうが関係がないからだ。

 しかし、それから彼の評判は頻繁に聞く羽目になる。興味を持たない俺でも耳に入ってくる彼の武勇伝。

 いきなり1年にも関わらずに風紀委員長になったとか。Fクラスを君臨しているとか。Fクラスの偏差値がぐんぐんと上がっているのは彼が目を光らせているからだとか。風紀委員長として数多くの傷害事件や暴行事件を未遂にしたとか。そもそも去年に比べて風紀が取り締まるような出来事自体、減少しているとか。それは毎日、風紀委員長自ら朝と夕方に見周りをしているおかげだとか。

 やっぱ、規格外な人やな。宇宙人と言われても信じてしまいそうやな。

 そんなことを思いながらも、俺は変わらず平穏に一年間を過ごすはずだった。


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