二章-3〜親友の定義〜
    

「副会長。よくもそんなデマを溢す事ができるもんだ。自分の事を棚に上げるってこういう事を言うんだな。1つ、勉強になったぜ」

「ひっ。なにを!」

 オレの低い声にビクンっと怯えながらも、反論をしてくる副会長に容赦なく侮言を吐く。

「壱兄がセフレ?それはてめえだろうが。いままで、親衛隊の子たちを侍らせて好き勝手してたくせに、何ぬかしやがる。狙うもんができたからって、汚いもん扱いしやがって」

 頭によぎるのは、しくしくと泣いている小柄な生徒たち。副会長や補佐の親衛隊たちは信望する相手に邪険に扱われて傷ついていた。見周り時にその様子を見てオレはそれとなく風紀委員を派遣したものだ。自分で慰めたいものだが、彼らが硬直するのが目に見えているし、そんな高等技術を持ち合わせていないので、他人にお願いすることにした。

 そして何より壱兄の目の下の隈。

 その原因の一人である副会長の暴言は決して許せるものではなかった。

 バレても構うものか!

 壱兄との関係が公開されることで、壱兄に迷惑を掛けるかもしれない。だが、その分、オレがしっかりと壱兄を守ろうとすればいいだけだ。こそこそせずに正々堂々と壱兄の手助けができるようになるのだから、いっそのことそのほうが楽かもしれない。後々で制裁なり誹謗中傷などを受ける羽目になるだろうが、それは覚悟の上である。

「壱兄はなぁ。てめぇらがサボり続けている分、ほとんど一人で仕事をこなしているんだぞ?てめえもわかってんだろが!自分の不始末がどれほど大きいもんか」

 オレの言葉にグッと舌を噛みしめて俯いている副会長の襟を掴んで、こちらを無理やり向かせる。

「てめえの今の立場がどれほど危いもんかもわかんねぇ〜ほどアホなのか?副会長様よ〜。壱兄が黙ってお前らが戻ってくるのを待つような間抜けに見えるか?着々とお前らを地獄に落とす準備は進んでいるぜ?」

 直接的な表現でなくあえて湾曲してオレは忠告する。目をこれでもかと言うほど大きく見開いているところを見ると、伝わったようだ。

「いつまでもそいつのケツばっか追っかけないで、現実を見ろ」

 オレの次から次へと飛び出す言葉にその場にいる者は皆、唖然としている。その中で一番に我に返ったのは浜辺だった。

「れ、零!そんなことを友達に言うなんて最低だぞ!」

「オレに友達などいねぇよ。お前もとっととその手を放せ」

 喚きだした浜辺にオレは自分でも悲しい言葉を吐く。そしてオレは浜辺の腕から香田百路を解放させ、そのままこちらに引き寄せることにした。
 荒ぶる気持ちを抑えつつ、できるだけ優しく声をかけた。

「足怪我しているんだろ?保健室に行くぞ」

「えっ…あっ…だ、だいじょうぶです」

 蒼白になりながら断ってくる香田は可哀想だが、さすがに見逃してやれない。近くでみると思ったより腕も足もそして、顔色も悪そうだ。

「悪いが、拒否権はなしだ」

 オレはそれだけを言うと、彼を抱きかかえた。さすがに姫だっこは彼も嫌だろうと、俵持ちにしている。
 抱きかかえてみて、その軽さに事態の深刻さを思い知る。

「零!なんで、俺でなく百路なんかを抱きかかえているんだよ!ちがうだろ!」

 意味不明なことを口走る浜辺に対しても嫌悪感も募ってくる。なるほど、壱兄と二夜が気嫌いをするはずだ。接してみてよく分かる。
 友達と言う言葉を安易に使うのは、二夜が言うようにただの口実なのだろう。

 オレにとって友達と言う言葉が今、なによりも神聖なモノだと思っているだけに、余計に浜辺の言動が癇に障った。

「親友に対して『なんか』と付けるのか?香田の傷も見ない振りをしていて何が親友だ」

「それは…ぐずぐずしている百路が悪いんだ!俺のせいじゃない!」

 だれが聞いても理不尽極まりない言葉にオレは呆れを隠せない。

「話にならんな。時間の無駄だ」

 オレは香田を抱きかかえたまま、足を進めることにした。

「まっ、待てよ!せ、生徒会室に行くんじゃなかったのかよ!」

「行きたかったら、そこの腐れ役員どもに連れて行ってもらえ。オレは仕事ができたからな」

 蒼白な顔でこちらを窺っている副会長と、相変わらず虚ろな目を向けている書記をオレは顎で指す。

 そして完全に彼らを意識から隔離させて、抱きかかえている香田に持っていたファイルを渡した。

「悪いがこれを持っていてくれ。それで顔を隠したらいい」
 
 ファイルを持ちながらだとバランスが悪くなるし、仮にも風紀委員長と言う目立つ立場にいるオレだ。
 そんなオレと一緒にいるところを見られると、へんに色々と言われるかもしれない。香田まで、オレみたいに孤立させるには申し訳なさすぎる。

「…ありがとうございます」

 消えてしまいそうなほど小さな声でお礼を言って、ファイルを受け取る香田に軽く頷く。そして、オレは抱きかかえたまま保健室まで彼を運んだ。

「まっ、まてよ!零!」

 後ろから相変わらず喚き散らす声が聞こえてきたが、オレは振り返る事も足の進みを鈍らせることもなかった。

(25/43)
  

目次へ しおりを挟む TOP


「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -