二章-1〜できる事〜
「零〜。お前、会っちまったのか…。まあそれはしかたないか…」
風紀委員室にて。
一限目が終わった途端に、二夜にメールで今すぐ来いと呼び出されてしまった為にしぶしぶ風紀委員室へと足を運んだ。
入った瞬間、二夜に問い詰められて、今朝の出来事を説明した。不機嫌丸出しの顔で聞き終わった従兄は大げさなほど大きなため息を吐く。
「まあ、マリモを撃退できたなら良しとしよう。もう厄介なヤツだってわかっただろう?」
「ん〜。五月蠅い奴だが、そこまでひでぇやつではないだろ?って言うより、まだわかんねぇ」
人の話を聞かないし、自分中心に世界が回っていると素で思っているようなヤツだが、あのアグレッシブでポジティブ姿勢は見上げたモノだ。ぜひとも見習いたい。
会った途端に『友達』などと言えるのは羨ましい限りだ。
そう言うニュアンスのことを言うと、二夜は呆れた口調で毒を吐いてくる。
「あれは親衛隊持ちほどの美形を侍らすための口実だろ。ただのビッチだ」
「男が男を侍らして何が嬉しいんだ?まったくわかんねぇ」
「だからビッチなんだろうが」
「ここの校風に染まる暇もなく、順応できるってすげえな。オレ、未だに無理なのに」
見当違いの関心である事は承知の上だ。だが、最初のころに、男同士のカップルがベタベタしている光景に思わずポーカーフェイスを外すほど驚いたものだ。最近でこそ慣れで耐性がついてきたので、自分に無関係だしいいかと思えるようになってきたのだが、それでもじゃあ自分もと言う気には到底なれない。
「あ〜それは慣れて行くしかないな」
「慣れたら、極さんとか兆さんとかみたいになりそうで、怖いんだが…」
街で出会ったここのOBを思い出す。二人ともバイであると公言していた。さらに、なぜかオレにチョッカイをかけてくる。そのたびに二夜や壱が怒り心頭になり、彼らに突っかかっていく。
まあオレのファーストキスの相手だと言う事も大きいだろう。
オレはノーカンにしているのだが、二人がその話しを聞いた時はマジで殺人級の眼光をオレに向けていた。
案の定、二夜の機嫌は急下降する。
「それはやめろ。アイツらの名前を出すんじゃね〜よ。おい、零。アイツらとは一人で会ったりしてないだろうな?特に極ヤロウはアイツは野獣だ。ミサイルなみに危険物だ。だから近寄るなよ?」
「あえて近寄らねえよ。街に出てったらどこで情報をもらっているのか知らねえけど、かなりの確率で現れてくるんだよ」
オレの数少ない、素で話出来る相手ではあるが、隙を見せるとセクハラもどきをされるので、油断にならないのだ。だから、あえて会おうとは思わない。
しかし、3回に2回の割合で現れて彼らの巣であるバーに連れ込まれるのだ。
「ちっ。癪だがまた腹黒ヤローと手を組んでアイツらと話つけにいくか…」
何やら物騒な話になりそうなので、オレは慌てて話題を元に戻すことにした。
「マリモ…ちがった。浜辺聖の話に戻ろうぜ。アイツがどういうつもりであれ、役員が仕事を放り出したのが悪いんだろうが。それを元に戻させればいい訳だな?」
「まあ。一番はそれだな。リコール準備も進んでいるが、辞めさせずにすめばそれに越したことはない」
「なら、話は簡単だ。その浜辺から奴らに戻るように指示させよう」
「どうするって言うんだ?」
従兄は不審げな眼でオレを見てくる。そりゃそうだろう。それが出来るならとっくにしていると言わんばかりの目つきだ。
「どうなるかわからねぇが、オレが浜辺に近づく」
「だめだ!」
100パーセント拒否されるだろうと思っていたが、やはり即答で否定された。オレはそれでも説得を続ける。
「オレは一応、風紀委員長だ。そうだろ?なら、アイツを傍で監視することで、他の役員どもや親衛隊の子たちも牽制することができる」
風紀委員長と言うよりオレ自身が、なぜか閻魔王か悪魔のように畏怖され遠巻きに見られている。
今朝の反応から言っても、浜辺も後ろの役員たちも少々怯えを見せていた。
なら試してみる価値はあるはずだ。それに…。
「それに、オレはアイツの性格や、本心を知りたいんだ。それによってオレの動きも変わる。このままリコールと退学に持ちこむのもありだがまだ1週間の猶予があるんだ。何もしないで時間を待つのは性にあわねえ。悪いが、二夜とか壱と違って、一見でアイツの本性を見極めるような器用な事がオレにはできないからな。だから近付く。浜辺にも役員たちにもだ」
リコールと退学。この学園においてそのような事態になれば間違いなく、その者の将来に傷をつけることになるだろう。上級階級の多い学園だ。特に役員となればそれなりの家柄育ちが多いと聞く。
自分のヘマだし彼らに同情をする気はないが、一応、この学園で風紀委員長と言う肩書を有しているのだ。せめて、彼らにもうワンチャンスを与える様に働きかけるのもありだと思う。それができる立場なのだから。
そんな思いを込めて二夜をジッと見据える。
「リコールの準備もそのまま進めつつ、役員を戻すように働きかけるのが一番じゃねぇって訳。で、壱兄は尻ぬぐいで手が離せねえ。なら、次はオレの番だろ?」
ちがうか?
オレの強い視線を受けて、二夜は苦虫をつぶしたように皺を寄せて険しい顔を作っている。
「あ〜。このお人よしが!人見知りが強いくせに、こんなところでしゃしゃり出ようとするなんて、アホか。この強情もん!」
基本的にこうしたオレの主張に弱い二夜である。結局、折れてくれることになった。
「あ〜腹黒にまたチクチク言われる…。いっそ、マリモもアイツも葬るか…」
ぶつくさオレに聞こえないほどの小さな呟きをこぼしながらではあったのだが…。
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