獅子の息子-2
〜・〜・(回想)・〜・〜
ことの始まりは二年前。中学二年になったばかりの時、両親を交通事故で亡くした。相手が飲酒運転でいきなり反対車線から飛び出して来たのだ。ほぼ即死だった。
親戚もいないで完全な孤児になった俺を引き取る者などない。そう思っていた。だが、両親は保険金もかけていたし、相手からの慰謝料も頂くことになっていたので、お金は思った以上に手元に舞い込むことになった。
そのために、会ったこともない血がつながっているのかも疑わしい者たちが、猫撫で声で近づいてくる。
俺はそれを完璧に撥ね退ける。そんな俺を憎々しげに睨みながら去っていく者たち。
だが、そんな意地を張っていられなくなってきた。
賃貸のマンションに住んでいた為に、未成年である俺が家主になるわけにはいかなかったのだ。
そんなときに現れたのが、この鷲尾さんだ。
初めて家に来た時、おもわず息を飲んでしまった。彼の容貌があまりにも整っていたからだ。黒い髪をオールバックにして縁なしの眼鏡をかけている。あまたの女性たちが彼の姿に見惚れするだろう。いや、性別関係なく思わず見てしまうほど整った顔立ち。
すこし強面だが、それが男としての魅力をあげている。
そして挨拶もそこそこで、俺に頭を下げて来た。
「本当に申し訳ない。私が君の両親に急遽仕事を言い付けなければ、こんなことにならなかった。だから、君を引き取らせてほしい。両親が残してくれた財産は君が成人するまで封印し、一切手を付けないことを約束する」
ここで、彼が両親の上司であると知る。30歳とすこしぐらいだろう。明らかに両親より若い。それなのに癖ある両親の上司をしていたことに純粋に驚いた。だが、それよりも言うことがある。
「ま、待って下さい。貴方のせいではありません!そんな必要のない義務感を持たなくてもいいのです」
俺はそう言った。事故は飲酒運転をしていた者のせいで、仕事を言い付けた彼のせいではない。そんなことを言っていたらきりがないだろう。
本当はかなり困っていたのでありがたい申し出だったのだが、俺は断った。見ず知らずの人に対しての警戒心ももちろんある。だが、目の前の人はなぜか初対面にもかかわらず信用に値する人だと分かった。それでも受け入れられないのは自分と言う重荷を背負わせるわけにはいかないと思ったからだ。
だが、彼は引き下がらなかった。日を改めて頻繁に足を運んでくれて、結局後見人として住んでいるマンションの家主となってくれた。と、言うかもともと分譲用のマンションだったので、買い取ってくれたのだが。
さらになぜか、彼自身も一緒に住むことになった。
そして、彼が何者なのかを知った。
両親が努めていた『レオンコンポレーション』の創立者で、社長。創立10年にして年商一千億。
そんな彼が忙しくないわけがない。それなのにつまらない自分にここまで手を煩わせた。
だから、俺は寮付きの高校を選んだ。これ以上彼に迷惑をかけるわけにはいかないからだ。
だが、進路を決めて合格した祝いの席で、怜央さんから告白を受けた。
「良い歳したおじさんがなにを血迷っているのだと軽蔑されるだろう。だが、もう気持ちを隠すことはできない。私はトモくんが好きだ。だから君があの学校を選択したことは正解だったのかもしれない。いくらなんでもそんな目で見ている私と一緒にずっと暮らしたくないだろう」
あまりにも衝撃の言葉でその場ではなにも言えなかった。そして彼はマンションに姿を現さなくなった。その時に自分の気持ちに気が付いた。最初から彼に惹かれていたことを。だが、彼があまりにも魅力的で俺は最初からその感情に無意識に蓋をしていたのだ。
それでも、俺は彼を追わなかった。
彼にすがりつくのが怖かった。もうすでに彼の気持ちは他に向いているだろう。俺なんか一時の気の間違いで好きになってくれただけだ。同性だし、子供だし、彼ならもっともっと素敵でお似合いな人がいる。
そう言い聞かし、中学卒業まで悶々と日々過ごしていた。
そして卒業式。
あれから会うことのなかった彼がわざわざ俺のために来てくれた。ステージから彼の姿を発見して涙がこぼれた。周りも卒業で泣いているので、別に目立ったりはしない。クラスメイトにはからかわれたが。
式が終わって俺に会うこともなく去ろうとしていた彼を、必死に呼びとめる。
そして、小さな声で俺は告白をした。
こうして、俺たちは恋人になったのだ。
〜・〜・(回想end)・〜・〜
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