獅子の息子-1
ブルブルブルブル…。
濡れた髪を拭いているとサイドボードの上から何かが振動する音が部屋中を鳴り響く。
ああ…着信か。
俺はそれに近寄って震えている携帯を持ち上げた。
そして表示された名前に一瞬、思考が停止する。
鷲尾 怜央(わしお れお)
それは、俺にとって後見人である男性の名前だ。そしてー。
「はい」
俺は小さく一呼吸してからボタンを押して出た。
『トモくん。久しぶりだね』
渋く低い魅惑的なボイスが携帯から聞こえて、思わず携帯を耳から放してしまう。
いつ聞いてもこの声は俺の心臓を大きく動かしてしまう。
「はい。お久しぶりです。怜央さん」
『いま、寮?時間あるならテレビ電話できる?』
そう言われて俺はPCを立ち上げた。怜央さんの姿が見れることに喜びを感じてしまう。
「すこし待って下さい。パソコンを立ち上げてなかったので時間がかかります」
起動までにかかる時間まで惜しく感じる。怜央さんはものすごく忙しい方なのに…。
『じゃあこのまま話しながら待とう。学校はどう?もう慣れたかい?』
「はい。入学して2カ月経ちましたし、ようやく俺と言う存在に慣れたようで変に注目されることも無くなりました」
俺は2ヶ月前に、この全寮制の学校に入学した。怜央さんには反対されたが、怜央さんにこれ以上負担かけたくなくて押し切って全寮制の学校を探した。
猛勉強の末、特待生の枠を勝ち取り来たわけだが、小・中・高とエスカレート式の男子校だったので外部性が珍しいためにしばらくの間、まるでパンダのように見られ続けた。
別に背も高くなく、顔も平平凡凡である俺に対してすぐに興味を失っていったが。
同じクラスの者たちもなんとか受け入れてくれて常に一緒にいるわけではないが、教室内で浮くこともなく過ごせている。
『そ〜か。それはよかった。私のトモくんにいらない虫がつかないか心配だったんだよね』
なんと、親ばかならぬ後見人ばかなことか。ことあるごとにこのたぐいのことを言ってくる。この学校に反対する理由もそれだった。
「俺なんかを食べようとする物好きな虫なんかいませんよ」
『それはあまりにも無自覚だよ。なんといっても、私がその筆頭なんだからね』
それは、怜央さんが雑食だ からで…と言いたい。だが、言えばいつものごとく甘い言葉を延々と口にしてくると分かっているので、黙っておくことにした。
そう。俺にとって怜央さんは後見人でもある上に、恋人でもあった。
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