マリモの憂鬱-氷と武士2
    

「いままで誰にも平等だったのは篠宮がいなかったからだ。少しまえに3人ほどの生徒が辞めていっただろう。あれがいい例だ」

 そう言われて、思い起こす。チワワ系の生徒がたしかに3人ほどいきなり自主退学していった。
 噂ではマリモを制裁しようとして返り討ちにあって、さらになにかしらの力を使って退学まで陥れられたとか。
 そのせいで、マリモは今まで以上に嫌われ、畏怖されるようになっていた。
 
 まあ、私はそれがマリモのせいだとは思わなかったが。そして、久しぶりに教室に来た死にそうな表情の彼に思わず、『…大変だな…』と、声をかけてしまったせいで懐かれることになった。そして、一応親衛隊持ちである私にまで近づくと、より一層マリモの悪評に拍車もかけることになる。

 だが、三人の退学の黒幕が会長?
 あり得ないという気持ちより、しっくりきたというほうが強い自分に動揺する。
 マリモの単純明快な性格を知って、そして生徒会長の私に向ける負の視線を感じてから、なんとなく自分でも分かっていたのかもしれない。
 そして次のターゲットは自分なのだと。

「ああなりたくなかったら、俺と付き合うんだ」

 ここで、はてなマークが再び頭に浮かんでくる。なぜこの青年と付き合うことに繋がるのだ?そもそも、そうしてまったく関係のない彼になんのメリットがある。

「それは辞められそうになる私に対しての、ボランティア行為ですか?お優しいことで。偽装交際をするとでも?」

 もし肯定するならここにはもう用はない。お断りしますの一言で終わりだ。そしてわざとぶつかってから出ていってやる。
 退学させられたら今後の未来は真っ黒だが、自己防衛するほかない。マリモに近づかないよう説得しよう。可哀想だが、分かってくれるだろう。
 私はぐっと拳を握りしめながら決意した。
 くやしくて目頭が熱くなってくる。だが、敵に涙など見せるものか。

「いや。偽装などで我慢できる訳がない。俺はお前だから申し込んでいる」

 寝耳に水とはこのことを言うのか。信じられなくて、目を見開いて彼を見上げしまう。
 その瞬間。彼の顔がいきなり近づいてきたかと思うと、唇にほんの一瞬だけ熱が触れる。
   
「えっ!」

 一瞬頭が真っ白になり、思考が止まる。だが、唇に残る柔らかい感触が、何を現しているのかすぐに理解できてしまった。

「ずっと機会を狙っていたんだ。こんな好機を生かさないわけにはいかない。俺がお前をモノにすれば見逃すようにと会長と取引したからな。悪いが、この学園にいるには俺のモノになるのが最善だ。できれば受けてほしいが」

「え?それって…」

「ああ、俺はお前が好きだ」

 私の頬に一筋の涙がこぼれる。ついに涙腺が崩壊してしまった。
 中学より見つめることしかできなかった雲の上の存在。
 ただ、すこしでも見れる位置にいたくて万年委員長を務めていた。書類を生徒会室に提出することも多いからだ。だが、チワワたちのように親衛隊に入る勇気もなく、かと言って諦めることもできなかった。
 ノーマルであると言われていたので、ただ見つめるだけで我慢していた。
 そんな彼からの思いがけない告白に、封印していた気持ちが一気にあふれてくる。

「私もずっと好きでした。書記様」

 私の告白に珍しく目を見開いてこちらを見ていたが、いきなり強い力で抱きこまれてしまった。頬に厚い胸板を感じる。

「零時でいい…拓人」

「はい…零時」

 こうしてノーマルで有名だった寡黙な書記、葉山零時と2年S組の『氷』の委員長、間宮拓人という異色の大型カップルが誕生した。そして、それが号外として校内新聞の表紙を飾ることなるのは数日後のことである。なぜかタイトルが『氷カップル、誕生』だったが。

「…会長、ヤンデレだったのですね…」

 会長とマリモの本当の実態を知り、心底からマリモに同情して友達になる約束をしてしまった。そして、ヤンデレ会長にきつく睨まれることになるのも同じ時期のことである。だが、取引がある以上、私が退学になることはなく、マリモの唯一の友達として過ごすことになる。あまり接しているとヤンデレ会長だけでなく、私の恋人にも絶対零度の視線で睨まれることになるので匙加減が難しいが。

end



補足
主人公は眼鏡をかけた美人タイプ。新聞部裏ランキング、『女王さまと呼びたい人ランキング』ぶっちぎりの一位。

≪制作秘話≫
最初にリクエスト頂いて、一瞬固まりました。
片方クールならなんぼでもパターンあるんだけど、両方クール。それでいて甘々。難しい!
 とりあえず、キャラクターを考えよう。クール…クール…クールビューティー…美人委員長…女王さま。それなら相手は武士か騎士。クールにするなら寡黙。寡黙…書記。ワンコではないけど、寡黙武士風書記に決定。
よし、設定はできた。
 しかし、二人をどうくっつけるか。いきなり恋人設定もなんだし……。 ん〜。マリモのヤンデレ会長のせいにしちゃえ。
 ってな流れでできました。ヤンデレ会長ますますワルに(笑)
 もっと書きたいシーンとかあったんだけど、短編で終わりそうもなく、最小限の内容になっちゃいました。
 わがサイトで初のカップルなんで、イチャイチャとか凍るような痴話喧嘩とかも入れたかったなあと思いつつ、とりあえずendです。
Yukiさんリクエストありがとうございました。


(11/12)
  

目次へ   TOP


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -