novel


ソイツは勝手な女だった。
いつだって、自由気ままで奔放の一言が似合う女。
時にはあのXANXUSの命令を突っぱねることも普通にやってしまう。
奇妙で不可思議な女だが、妙に懐が広く人好きのする女だった。

―――まさか、1人勝手に死んでいくとは思わなかったが。

「満足そうな顔をしたもんだな」
「この私が死に化粧を施したのだもの、当たり前でしょう?」
「オカマのネクロフィリアがこんな所で役に立つとは思わなかったしー」
「本当だね。しかし、彼女が死ぬとは思わなかったな」
「まったくだ。ボスの命に叛く上に、1人でホイホイ旅に出るわ。しょうもなく見下げ果てた奴だが、実力はあった。こうして見ると、惜しまれるものだな」
「ムッツリ親父の価値基準が気持ち悪いですー」

 立ったまま、白い棺に収まった女を囲み、その死に顔をとくと眺める。好き勝手言い放題なのは、流石にどこか感性がトチ狂っているココならでは、と言ったところだが。

「まあ、死んじまった奴のことをもうこれ以上どうこう言ったところでどうしようもないけどな」
「それもそうね。惜しい人材ではあったけれど」
「金にもあんまり執着しないし、むしろ金払いが良くて、ボクは凄く好きだったけどね、彼女のこと」
「ふん。もはやどうでもいい。俺は行く」
「そーだね、俺もこの後任務あるしー」
「って、ボクを一緒に連れて行くのは止めてくれないかい」
「あら、マーモンちゃんだってベルと同じ任務じゃなーい。
 後は任せたわよ、スクアーロ」
「へいへい。好きにしろぉ」

 俺達が幹部となってからは使われたことのない、幹部専用の遺体安置所は一気に静まり返った。
 閉めるに閉められない棺の蓋とは反対側に陣取って、体温を失くした彼女の頬に手を添えた。

「心中、してやれば、良かったかぁ」

 帰らない返答と共に、思い出すのは彼女が見つかった時の、光景。

 一人で穏やかに眠っていた、寝台の上。起きないのは珍しい、疲れてんのかと思ってみれば、冷たくなっていた彼女。
 はっとして、周りを見てみれば、近くの机に転がっていた複数の空き瓶。ラベルを見るまでもなかった。

 頭を過ったのは、妙に疲れ切ったような笑顔をへらりと浮かべながら、1人手酌で飲んでいた女の姿。

「ねえ、スクアーロ」
「あんだぁ?」

 誘われた酒に応じながら、適当につまみを口にし、話掛けられたので、耳を傾ける。あと一杯酒を空けてしまえば、このまま寝落ちするんじゃないかと思うくらい、寝ぼけ眼になっている女は、ゆっくりとした口調で喋る。

「誰かと一緒に死にたいなー、なんて思ったこと、ある?」
「ある訳ねえだろ。そういうお前はあんのかぁ?」
「だーよねー。うーん、こうなんかふわっと?
 ああ、あの人だったら一緒に死んでもいいかなー、ってな感じに?」
「んだ、そりゃ」

 訳のわからないことは、ぽつぽつと語る女の、その時の姿は間違いなく酔っているように思えた。でなきゃ、普段一線を弁えているはずの女が、こんな話を振ってくるはずがない。
 疲れているようなら、勝手に「リフレッシュしてくるわー」とかなんとか適当なことを言い残して、1人ぶらっとどこかに出てしまうような奴だ。
 (連絡はつけども、かろうじて、といった程度故に、俺がなんどXANXUSに殴られたことか!?)
 疲れているのは分かるが、こんな姿を見るのは初めてだけに、違和感を妙に強く感じだ。

「日本の小説であるらしいよ、私死んでもいいわ、って。
 それが愛してると同義なんだってさ。なんか、そんな感じ?」

 べたー、っと机に頬をついて、グラスの縁を上から掴み、ユラユラを揺らす。それでありながら、ふふふ、と薄く微笑んで楽しげな彼女をからいっそ一種の狂気がにじみ出ていた。

「酔ってんのかぁ?」
「……酔ってるかもね、らしくもなく、スクアーロとなら死んでもいいかもー、なんて思ってるから」

 散らばる髪を梳いて、空いた片手に持っているグラスに入った酒を一息で煽る。

「そう思うなら、とっとと寝ろぉ。らしくもねえ」
「あー、そうするー。寝る、おやすみー!」

 眉を少し顰め、それからまたへら、と笑う女は、不安定ながらも立ち上がった。新たに酒を注ぎながら、千鳥足になっている女をその場で見送った。

 ソイツが俺のことをどう思っていようとも、この仕事をどう捉えていようとも、俺が思いに応えることはないし、この仕事から逃れられる訳ではない。仕事柄、逃げると言う事が意味することは1つだ。

 限界、なのだろうか、と思うものの、死んだら死んだかぁ、と思えなかったアタリ、俺の性根もイカレているんだろう。

 その数日後、彼女は眠るように逝った。

 泣くことも忘れてしまっている俺は、魂を亡くした女の骸に口づけて、棺に蓋をした。

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