ブルー・ジュエル




一目惚れはあるか、ともし誰かに聞かれたら。

……いや、聞かれないけど、もし聞かれたら!
私は迷いなく「ある」と答える。



「お前ら、早急に支度しろ。夜明け前にはここを出るぞ。」

「了解!」


荷物をまとめながら、思わずため息をつく。
あー、今日も好きだなぁ。


私が調査兵団に入団して、まあまあな年月が経った。
入団を志望した理由は、たったひとつ。



リヴァイ兵長を、少しでも近くで見ていたいから。



そんな甘い理由で命を掛けられるのか、と言われるかもしれない。
でも、私にとってはそれは命を掛けるに値する動機だった。



好きな人の傍に居たい。

好きな人と共に戦いたい。

そして何より、好きな人を守りたい。


他のみんなに比べれば不純な気もするけど、誰よりも熱意はあると自負している。
そのために憲兵団の誘いを押してまで馬鹿みたいに調査兵団で戦ってきたんだ。

絶対に私は巨人を駆逐する。
そうして同じ空の下で、しつこく生き延びてやる。



……ただ、ここでひとつ問題があった。


「ナマエ。手が止まってるぞ。」

「は……はい!すすすすみません!」


こんだけ熱く語っておいてとても言い出しづらいが、私はとても奥手だ。
彼に、アタックが出来ない。全く。
頼むから、もう少し素直になれるようになってくれと、何度思ったことか。


「ぼうっと突っ立ってる暇はねぇ。
お前だけここに置いて行くぞ。」

「あっ、えっ、困ります!」

「だったらさっさと荷物をまとめろ。」

「はいっ、!」



呆れたように私を見下ろす彼に見蕩れないように気をつけて、手早く荷物を詰め込む。
せっせと作業していると、ちょうど隣に居たアルミンがちょんちょんと私を肘でつついた。


「ナマエ、大丈夫?
また怒られてたみたいだけど……」

「ぜんっぜん!それよりもこの荷物閉めるの手伝ってくれる?」


むしろお話出来るなんてご褒美です。
なんて欲を喉元で押さえ込んで、心配そうな彼にロープを手渡す。


確かに、リヴァイ兵長が私にちょっかいをかけてくる事は少なくなかった。
でも、その言葉のどこにも棘みたいなものは感じなくて。
ずっと引っ掛かる違和感は、いつもどこかにあった。
もしかしたら、ただ心配してくださってるだけかもしれないけど、なんというか。


むしろ……どこか楽しんでるような。

でも、元々表情があまり変わらない彼の心なんていくら彼を見つめてる私でも読めるはずもなく。
ただただ何か不思議な感じがずっと離れなかった。


そんなこんなであっという間に出発時間。
気を引き締め直して、私は馬に跨った。









「やっば、買いすぎちまったぜ……」

両手いっぱいの袋を見て、ため息をつく。
久々に丸一日休みなのに浮かれて、完全にいらん物を買いすぎてしまった。
しかも、全部なかなかいい値段。
インテリアとか、時計とか……まともに家にいないくせにいつ使うんだ、こんなの。

ま、いっか。なんて呑気に考えて1歩踏み出す。
すると私は突然、ガラの悪い輩たちに囲まれた。


「お姉ちゃん大荷物だね、良かったら俺たち持ってあげよっか!」


……ナンパかよ。ダルいな。


「いえ、すみません、急いでるんで……」

定型文みたいな言葉をとりあえず残してさっさと帰ろうとまた1歩踏み出すと、その先を塞がれる。
何度断っても着いてくるそいつらをぶん殴りたい気持ちを、ぐっと抑えた。
手を出されている訳じゃないし、何よりこの戦利品たちに何かあれば困る。
今月分は余裕で溶かしてるんだ。
それらに何かあっては、たまったもんじゃない。


話し掛けては邪魔をしてくるそいつらに、イライラが募る。
いっそ手を出してくれればこっちだって遠慮なくやり返せるのに、そこまでの度胸が無いのか何なのか、そいつらは意地でも私には触ってこない。

問題を起こす訳には行かない。
そういう女は、彼は嫌いそうだし。
でも腹が立つ。

叫び出したい気持ちを我慢して、意を決した私は口を開いた。


「り……リヴァイさんが待ってるので!!!」

「はっ?リヴァイ……?」


口から出任せを吐いた瞬間。
私の両手がすっと軽くなる。





「なっ……ど、どうして……!!」

「お前が呼んだんだろうが、ナマエ。」


重かっただろ。と呟いて、軽々とそれらを持ち上げる彼に、ぽかんと口が開く。


「って事だ、てめぇら。
悪いが出る幕はねぇんでな。
とっととお引き取り願おうか。」


その鋭い視線に睨みつけられた男たちが、慌てたように去っていくのを、ぼんやりと見つめる。


すると突然、私の頭がぽんと撫でられた。



「よく我慢してたな。」




小さく頷いた彼に、やっと少しずつ感情が追いついてくる。




待って、どうしてこんな、ってかさっきのめっちゃ彼氏みたいじゃないか……!!??



いきなり恥ずかしさとか嬉しさとかが込み上げて来て、私はその場にしゃがみ込んだ。


「お、おい。ナマエ。」


少し慌てたような声。
心配してくれてるんだ。
優しい。好き。
ほんとに、なんでこの人こんなにかっこいいの。
頭の中で情報が完結しない。


「あの、り、リヴァイ兵長、」


ふと思い立って、顔を上げる。
興味が湧いたんだ。
彼はなんて答えるかって。

何だ。と小さく首を傾げるリヴァイ兵長を見上げて、言ってみた。



「好きです。」



その言葉に、少し見開かれる彼の瞳。
それからふっと、優しく、彼が笑う。




「……知ってる。」



宝石みたいにきらきらと眩しい彼。

本当に、この人は私を夢中にさせて仕方がない。



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