It never rains but it pours.




思うことがある。

不幸は重なるものだという言葉があるが、その通りだと。




眠りにつく3秒前、いつも頭をよぎる。

俺に凭れたナマエの顔と、俺の中にいつまでも居座る後悔。
コイツらは、いつまで経っても俺の心を離れる気配が無ぇ。




「……ナマエ。いつまでそこで情けねぇ顔して寝ていやがる。さっさと起きろ。」




瞼を閉じるナマエにそれを言ったのは2度目だったと、口に出してから気が付いた。




「リヴァイ、いつも以上に最悪な人相だね。今日も寝不足かい?」

「ちょっと、分隊長。その話は……」


外へ出ると、見慣れた同期の姿。
ソイツの励ましが混ざった軽口の相手をする気にもなれず、資材の木箱に腰掛ける。








あの日の始まりは、他愛もない話だった。

確か朝は紅茶かコーヒーかだとか、そんな事だった気がする。
そこからどうその話が発展したのかは、覚えてすらいない。
ただ、片手に収まる程しかした事の無い口喧嘩を、その日は珍しくしたんだったか。


そして、仲違いをしたまま出撃したのが、俺の1番の間違いだった。




「リヴァイ、あんたは東から。あたしはそこの2体を倒してから西から回る。」

「奇遇だな、俺も同じ事を考えてた。」

「それは良かった。リヴァイ兵長様にわざわざ言う必要なんて無かったわね。」

「言ってろ。」


俺もナマエも似た者同士。
互いに素直にもなれず意固地になったまま、運悪く多数の巨人と遭遇。


そんな時まで素っ気ない俺らの会話に、ため息が漏れた。
ったく、こんなのらしくもねぇ。




ナマエの班のヤツが俺に泣きついてきたのは、それから暫くしないうちだった。


「リヴァイ兵長、ナマエ班長が……!!」


「……っ、すぐに向かう。」


「こっちです!!」


あの時ほど立体機動装置を不便に思うことは、これからも無いだろう。


「ッ糞……遅ぇ……!!」





到着した頃には、ナマエは既に満身創痍だった。
頭から血を流して、左肩から下も真っ赤に染まっている。
ナマエを腕に抱いてやっと、左腕が持っていかれていたのだと気が付いた。

その薬指には、俺と揃いの指輪が光っていた筈なのに。



「……ナマエ。」


額に掛かった前髪をはらって、声を掛ける。



「ナマエ。いつまで情けねえ顔して寝ていやがる。さっさと起きろ。」


ナマエを抱く腕に力を込めても、反応が無い。




抱き起こしたその身体の重さを感じた途端。

ばつん、と、俺の中で何かが切れた。




「ああああぁぁあああぁ!!!!!」


今まで出したことも無ぇような俺の叫びを聞いて、周囲の巨人がその首をぐりんとこちらに向ける。




「……オイ、エルヴィンに伝えろ。
大事なモン持ってかれた、取り返すまでは帰れねぇと。」


「り……了解!」



飛び去った兵士を見届けて、ナマエを壁に凭れ掛けさせる。
ソイツを背に、俺はぐらりと立ち上がった。


「てめぇら、俺のに手を出したのが運の尽きだったな。」


新しい刃で指した目の前の阿呆面が糞でけぇ口を開けたそこを、横から抜けて項を突き刺す。
ちょうど降り始めた雨とアイツらの汚ぇ血が俺の頬で混ざって、ぼたりと落ちた。


「また相手してやるから、地獄で待ってろ糞野郎共。」





そこからの記憶は、切り取られたようにすっぽりと抜けている。

どうにか連れ帰ったナマエはどうにか一命を取り留めたが、未だにベッドの上で目を覚ますことは無い。






「リヴァイ……リヴァイ、聞いてる?」


はっとして顔を上げる。
途端に間近で俺を覗き込んだハンジの顔が俺の視界に押し入ってきて、それを押し返すと、ソイツは俺を憐れむように眉を下げた。


「114期生、そろそろだね。」

「あぁ……そんな時期だったな。」


「……リヴァイの気持ちも分かるけど、ナマエはきっと大丈夫だよ。
私たちは信じて待つしかない。」


「……あぁ。」


「時間だ、行こう。」




重い腰を上げた、その時だった。



「リヴァイ兵長!!!」


振り返ると、あの時俺に泣きついてきた兵士。
コイツに落ち度は無いが、何となく顔が見たくねぇ。
小さくため息をついて「何だ、うるせぇな。」と見遣ると、ソイツは満面の笑みで口を開いた。








息を切らして雪崩込むように抱き締めた俺の背を、しなやかで暖かい右腕が撫でる。
目を閉じて首元に鼻を埋めると、愛おしい匂い。
大事なものを無くしてごめんと謝るお前の唇に俺のを重ねた。


「お前がいれば、それで十分だ。」

自分でも痒くなる程くせぇセリフに、お前が柔らかく笑う。

「あたしだって、そう思ってた。」






思うことがある。

不幸は重なるものだという言葉があるが、幸福も重なるものだと。



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