真っ赤な白馬の王子様


雪が降っている。

綿毛のように、粉のように。綺麗とは逸楽して言えない寒さの中で、サヤとアルミンは二人して丁度いい高さの花壇の縁に腰掛けていた。花壇と言っても雪を被ってしまい、そこに色はない。
ただ、しんしんと雪が降っている。

「エレンたち、遅いねー」
「そうだね…」

サヤの言葉に黙って向こうの街を見ていたアルミンが相槌を打った。
今日、サヤ達はエルヴィンからリヴァイが出席する会議の同伴を頼まれて街までやってきた。ミカサとエレンは会議に出なければならないらしい。エレンが巨人化出来ると知った今、調査兵団をはじめ各々の防衛班で協定が結ばれているのだ。
ミカサはどうせ着いて行くだろうと、エルヴィンは彼女にも最初から声をかけていたらしい。

だから、ここには馬車を見張る留守番役が二人。

「寒いね」
「そうだね」

アルミンはまた答えた。

寒い昼だ。どんよりとした曇り空が壁の向こうまで灰色に染めている。サヤのついたそれは白い溜息となった。
すう、と消えていく息を眺めながら、アルミンは思考する。

ずっと昔、まだサヤたちと外で遊んでいた幼い頃。こんな風に天気が悪い日でも、サヤは雪だるまをつくろう、と満面の笑みで家まで訪ねてきたっけ。
遠い昔のようだけど、実際そこまで年月が経った訳ではない。

なのにどうしてエレン達を遠くに感じているんだろう。リヴァイと共に去ってしまった二人を思い出して、アルミンも溜息をついた。

「僕は…ここにいていいのかな」

状況は違うのに、小さい頃は虐めっ子から庇われ、今は巨人から護られ、自分の立場は一向に変わってはいない。

「守られてばかりだ。僕が調査兵団に入ったこと、ほんとはどう思ってるんだろう」

そんな言葉を聞いていたサヤは、黙ってアルミンの横顔を見た。寒いのかサヤの鼻は赤くなっている。

アルミンは、サヤの前では弱音を吐くことが多かった。エレンやミカサの前では、守られているという負い目がある分、そして調査兵団に無理言って入った分、彼らがいて安心する反面緊張もするのだろう。しっかりしなければと気を張ってしまう。

それに比べてサヤは、昔からただ当たり前のように隣にいた。どうして危険な調査兵団に入ったのかは分からないけれど、今も昔もアルミンを守るでもなく ただ側にいる。

沈黙の間、サヤは金色の髪に積もる雪を見上げていた。考え事をしているとはつゆしらず、帽子のようなそれを無心に見つめている。

アルミンと目があった。

「……。サヤ、頭に雪が積もってるよ」

呆れながら手で払おうとするも、体温のせいで手についた時点で溶けて雫になってしまう。
冷たい。手のひらを見つめていると、ぼうっとしていたサヤが嬉しそうに笑った。

「私も、同じこと考えてた」

白く細い指先がアルミンの髪に伸ばされる。

「っ」

しかし、アルミンは反射的にその手を握った。

「っえ、あぁ、ごめん…急に伸ばしてくるから…」
「…なによ、別に叩いたりしないったら…」
「怒らないでよ…」

どうせ他の事でも考えていて、話を聞いていなかったのだろう。昔からアルミンはそんなところがある。
と、ぷいっとそっぽを向くそれに気不味くなって手を離そうとしたら、離さないで、と怒られた。

「寒いんだから、あたためてよ…」
「ええ…?なんだよそれ」

おこってるくせに、訳が分からない。

そう言いながらもアルミンはぎゅっと、今度は意思を持ってサヤの手を握ってくれる。

熱が伝わり、重なる手があたたかくなる。
再び無音になった銀世界。

世界に二人だけになった…みたいな錯覚をしているのは、サヤだけなのだろうか。


「すき」

雪の落ちる音さえ聞こえてしまいそうな静けさの中で、この声も溶けてしまえと思って。
呟いた言葉に飛びのくアルミンが真っ赤に頬を染めるまで、あと一秒。


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