イライラする。
「…………」
じっと一点に視線を注ぐ。その先にいるあいつは、こっちの心中なんて知らずに呑気にユリウスと話していた。
「……あ」
笑った。あいつが、ユリウスに。
「ラギ、ラギ」
呼ぶ声にようやく視線を剥がす。ゆっくりと隣へ顔を向けると、微妙な表情を浮かべたビラールがこっちを見ていた。
「……んだよ」
口から零れた声は、自分でも驚くくらい低かった。
「手を見てくだサイ」
言われるままに視線を落とすと、見るも無残な姿に変わり果てたフライドチキンが握りしめられていた。
さっき変な感触がしたのはこれか。
差し出されたナプキンを無言のまま受け取って、油に塗れた手を拭う。
ちらりと視線を戻すと、さっきよりも近い距離で笑い合う二人の姿が目に入って自然と眉間に皺が寄った。
「…………」
イライラする。
手はきれいになっても、胸に渦巻く不快感までは消えなかった。
あいつ―――ルルがオレを避け始めてもう一週間が経つ。
最初は気のせいかとも思った。だってそうだろ、避けられる理由がない。
だけど時間が過ぎていくにつれて、勘違いじゃねーって気づき始めた。
そのときは、特に何も思わなかった。せいぜい、なんでだって首を傾げたくらいで。
だんだんそれが癪に障るようになったのは、ルルが避けているのがオレだけだってことに気づいてからだ。
話しかけても、すぐに切り上げられるし。
メシ食ってるときは絶対に近寄ってこようとしねーし。
何より、ここ最近あいつと話してないのってオレだけじゃねーか?
思い返せば苛立ちは増して、必然的に目はあいつを追うようになった。
―――そんなことを、この数日ずっと繰り返している。
「ラギ、すごい顔していマス。もっと、にこやかな顔をしてくだサイ」
宥めるような声に、意識が呼び戻される。視線を横にずらすと、いつもの笑みとぶつかった。
「……おまえみたいにヘラヘラ笑えるわけねーだろ、こっちは意味わかんなくて苛ついてるってのによ」
威嚇するように唸っても、ビラールの表情は崩れない。そのことにますます眉間の皺が深くなった。
「フフ。怒らナイ、怒らナイ。ルルは女の子らしくてかわいいデスね」
「あ? どーいう意味だよ、そりゃ。おまえはわかるのかよ」
要領を得ない言い方をするビラールに、身体を向ける。
「わからないナラ、本人に直接聞いてみるとイイ。その方が早いデス」
「……それもそうだな」
ここでグダグダ悩んでいても始まらねー。元々、オレは考えるより前に動くタイプだ。
だったら行動あるのみだろ。
「……うっし」
ひとまず目の前にある肉を口に放り込む。席を立って向かう先は一つだ。
「今度は逃がさねーからな……」
「ラギ、ラギ。それでハまるで、悪役のようデスよ?」
ビラールの台詞は聞こえなかったことにして、そのまま背を向ける。
呑気に揺れる桃色から目を離さないまま、オレは一歩を踏み出した。
「おい、ルル」
気になるあの子は
(はあ? ダイエット中!?)
その後、ルルから聞き出した理由に脱力して、思わず怒鳴り散らしてしまったのは言うまでもない。
おかしいな。予定では、公式ツイッターで流れたマカロンの日ネタから派生したラギルル風味の話になるはずだったのに。
2011.07/12掲載