「はいラギくん、プレゼント」
 陽射し溢れる爽やかな朝。
 喧騒に包まれた食堂で肉を頬張っていたラギは、差し出されたものを見るなり盛大に噎せた。
「〜〜〜〜っ!」
「ああ、ラギくん大丈夫?」
 白々しいアルバロの言葉に構わず、ラギはテーブル上のグラスを手繰り寄せると一気に呷った。どうにか耐え凌いだ彼は、変わらず愉快そうな笑みを浮かべる青年を睨み上げた。
「アルバロてめー、いったいなんの真似だ……!」
「だからプレゼントだってば。また一つ大人になったラギくんへのお祝い」
 そう言うアルバロの手の中にあるのは、丸められた冊子だ。いわゆる、グラビア雑誌とか言われる。
「なんでそんないかがわしいもんがプレゼントなんだよ! もっと違うものを選べっての!」
 そう言うラギの顔が赤いのは噎せたのが原因なのか、はたまた目の端でちらつく雑誌のせいなのか。
 当然のようにその辺りを承知しているアルバロは、にっこり笑顔を浮かべて【だってその方が面白そうだし】とのたまった。
「ああ畜生、おまえはそういうヤツだったよな……」
「そんなに喜んでもらえるなんて嬉しいなあ」
「オレの態度のどこを見て、そんな台詞が出てくるんだよ!」
 脱力すると同時に渡された冊子を咄嗟に投げつけるが、アルバロはあっさりとかわしてしまう。悔しさからラギが歯噛みしていると、後ろから呑気な声がかけられた。
「ラギ、今日が誕生日なの?」
「ル、ルルっ!? おまえ、いつから……!」
 思わぬ人物の登場に、ラギの表情に焦りが浮かぶ。対するアルバロは落ち着いたもので、愉快そうに肩を揺らした。
「君が感動のあまり咳きこんでいた時に、かな。ルルちゃん、ずっとラギくんの後ろにいたよ」
 つまりは、ほとんど最初から見ていたということで。
「な……! お、おまえ、いたなら声かけろよ!」
「ご、ごめんなさい。だって声をかける暇もなかったから」
「駄目だよラギくん、いくら恥ずかしいからって女の子に八つ当たりしちゃ」
「てめーがそれを言うか……!」
 だが八つ当たり云々はアルバロの言う通りなので、ラギに言い返すことはできない。
「怒らないでよ、邪魔者はすぐに退散するからさ」
 ぐっと堪えて震えるラギに肩を竦めると、アルバロは手をひらひらと振って席を離れた。
「あの、ラギ?」
 食堂を出ていく生徒達の中に消えていく背中を睨みつけていたラギだったが、おずおずと後ろから声をかけられて我に返る。
 さっきの一部始終を見られていたのかと思うと、どうにも気まずい。やましいことは一切ないはずなのに、居たたまれない気分になった。
「お、おう」
「アルバロからのプレゼント、向こうに飛んで行っちゃったけどいいの?」
「いや、いい! あんなもんいらねー!」
 どうやら幸いにも、冊子の内容までは目に入らなかったらしい。内心胸を撫で下ろしたラギは、尚も雑誌が消えた方角を見やるルルの注意を引くべく口を開いた。
「そ、そんなことより、何かオレに用でもあったのか?」
「あ、そうなの! 今日がラギの誕生日なら、おめでとうって言いたくて」
 ラギの誘導にあっさりと乗ったルルは、そう言って顔を綻ばせた。
「お誕生日おめでとう、ラギ!」
「……ああ、ありがとな」
 純粋に心から祝おうとしてくれていることがわかる姿に、自然と口元が緩む。素直に感謝の意を伝えるとルルは笑みを返した後、僅かばかり顔を曇らせた。
「でもごめんなさい、プレゼントがなくて……」
「ばーか、んなこと気にすんな。さっきの言葉だけで十分だ」
 ラギがそう言っても、ルルの顔は晴れない。しばし黙り込んでいると、何か思いついたかのようにぱっと顔を上げた。そこに浮かんでいるのは、満面の笑みだ。
「そうだ! よかったら週末、街に出かけない? 一緒にプレゼントを選びたいの」
 ルルの提案に、目を見開く。
「一緒…って、おまえそれ……」
 それはつまり、二人で出掛けるということで。
「や、やっぱりそれじゃ駄目? だったら後で、」
「いい」
 はっきりと、そう声に出す。見開かれた飴色を真っすぐに見返して、ラギはきっぱりと言い切った。
「選んでくれるんだろ? 一緒に行った方が早いじゃねーか」
「……うん! ラギが喜んでくれる、とびっきり素敵なプレゼントを選ぶんだから!」
「おー、せいぜい期待しないで待っててやるよ」
「もう、そんなこと言って。絶対絶対、ラギがびっくりするくらいすごいプレゼントを見つけるんだから!」
「わかったわかった。それよりおまえ、時間はいいのかよ? そろそろ授業が始まる頃だろ」
 ラギの言葉に懐中時計を確認したルルは、時刻をみるなり顔を蒼褪めさせた。
「このままじゃ遅刻しちゃう……!」
「大変そうだな。ま、頑張れ」
「……ラギは?」
 恨めしげな視線を受けても、ラギは席を動こうとはしない。どうやら、努力はしないということらしい。
「オレはまだ、プーペに頼んだおかわりが残ってる」
「もう! ラギもちゃんと授業に出ないと駄目なんだからね!」
 そう言うなり、ルルは出口へと駆けていく。その背中が扉の向こうへ消えたのを見送って、ラギは机に突っ伏した。
「あー……」
 ほとんど人のいなくなった食堂に、重い重いため息が落とされる。露わになった耳は、彼の髪に負けず劣らず真っ赤だった。


 今年も迎えた誕生日。
 特に何かがあると期待していたわけではないが、思いもよらぬプレゼントをもらってしまった。
 プレゼントを選びに出かけるということは、必然的にほとんど一緒に過ごすことになるわけで。

 それはつまり、デートというやつじゃないだろうか。


「畜生、それは反則だろ……」
 真っ赤になったラギが、しばらくの間顔を上げることができなかったのは言うまでもない。

彼女と過ごす週末
(それが何よりの贈り物)



現状、まだ恋人未満な二人。別に二人で出かけるのが初めてじゃないけど、「ルルがラギのために一日つきあってくれる」というのが嬉しかったんだよという話。
誕生日おめでとう、ラギ! 当日は意識しすぎて初々しいデートをするといいよ。

2011.03/29掲載
2011.07/07修正

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